011.愚痴
奇麗なネオンが見える一等席。
そんなネオンを眺めつつ、カクテルを舐めているのだが、隣りからもの凄い勢いの愚痴が飛んで来ている。

『あ、薫ちゃんと飲みにいく? 止めとけ、絡まれるぞ?』
『誰が絡むってぇ?』
『うげ、か、薫ちゃん・・・』

その時点で逃げをかけていれば良かったのだが、そんなアタックを躱す暇なく、襟首掴まれて引っ張られたら、逃げるに逃げられない。
お達者でー、とハンカチをひらひら振っていた鳩村と山県の姿が脳裏に浮かぶ。

「聞いてる?」
「あ、はい、聞いております」

そんな愚痴を聞いていたら、酔うに酔えない。
がぶ飲みする気力もがりがり削られて、結局舐めているだけになってしまう。
すると、酔えるわけもなく、愚痴も聞くことになる訳で・・・。
悪循環。

内容は、たわいのないこと。
仕事の事、自分の友人の結婚と自分の結婚観について、自分のスタイル・美容の話、で、人間関係について。

「私はさあ」
「ええ」

薫は、警察手帳を開いてみせた。

「このままで、いいのかな・・・」
「・・・え・・・・」

火照った赤い顔で、でも目だけは酔ってないように見える。
刑事やっていると、こんなことも見抜ける様になってしまうのが、ある意味悲しい。

「コウちゃん、私って、中途半端だよね」
「そんなこと、ないですよ・・・」
「このままで、いいのかな」

立花はその意味を計れないでいる。すると、薫は警察手帳のある一部分を指差した。

「私、地方公務員だから」
「あ・・・」

立花の手帳と、明らかに違う点。
階級は同じ。
けれど、彼女の手帳には神奈川県警察の文字がある。

「女々しいけどさ。あいつらのこと、気になっちゃって」
「俺は、薫さんらしくていいと思います。完璧な人なんていないじゃないですか。それに、少年に真摯に向き合っている薫さんは、俺はかっこいいと思います」
「・・・ほんと?」
「はい。思います」
「ありがと、優しいな、コウちゃんは・・・」

薫は少しもの悲しげに笑った。
横浜も好きで、戻りたい気持ちはあるが、それ以上に彼らの事が気になって仕方がない。
最近、気持ちがぐらついているのだ。

「あ」

その一言に、二人が振り向いた。

「あ」
「噂をすれば、何とやら?」

薫が、手元のグラスの中に入っていたカクテルを一気に飲み干した。

「噂?」
「あんたら二人のだよー」
「・・・ろくでもない噂だろ」
「タカ、帰ろう」

鷹山のスーツの上着の裾を、大下が引っ張る。
それに同意した鷹山のスーツの裾を今度は真山が引っ掴んだ。

「うわっ」
「飲んで行けー」
「えー・・・・」
「私がおごるから。一杯」
「うは、一杯だけ?」

二人の前に用意されたのは、オレンジ色のカクテル。
鷹山はそれを見て、表情を曇らせた。

「ヨコハマ・・・」
「今日はね、ノスタルジーなのっ」
「ノスタルジーって・・・」
「飲めないっての?」
「結構これきついんだけどな・・・」
「アルコール分高いの?」
「甘いの」

大下が、納得したように頷いた横で、薫は立花に同じような色のグラスを差し出した。
それを舐めた立花が、顔をしかめる。

「アルコールないっす・・・?」
「うん。付き合ってもらいたいから。もう少し」
「・・・・え・・・?」
「だから、このカクテルにしたの」


「名前、コンクラーベっていうの」

・・・根比べとは関係ないっすw
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