010.疾走
「待てやこらっ!!!」
響く足音、怒号。
目の前を走る男は、ひったくり犯人。
現場に偶然居合わせた大下は、その男を追いかけていた。
「あ、大下さん?」
その声に、耳を貸す事なく、大下は目の前の男を追跡する。
「大下さんっ」
「ひったくり!!!」
大下の指差す男に、北条と立花は視線を投げた。
二人も、追跡に手を貸す。
「回る!!」
立花がそう言うと、横道へと駆け込んだ。
大下は、息が上がって来た。
「ちょ、きた、じょ、任せた」
「大下さんっ」
そこで、大下は脱落。北条は再び男の背中を追った。
ベルトに付けていた携帯電話を手にすると、追跡しつつ電話をし、応援を要請する。
「現在、新宿8丁目!!」
男の足が止まる事はない。
その男が次に選んだルートは、最悪にもマラソンのコースだった。
沿道の人が邪魔で、北条は思う様に進まなかった。が、それは相手も一緒。
と、何を考えたか、男はルートへと飛び出した。
「ちょっ・・・!!!」
立花が、人垣をかき分けて道路へと飛び出す。北条も後を追った。
「そいつ、ひったくり!!!!」
立花の声が、ランナーに届く。
ランナーが、一斉に男を取り囲んだ。
「邪魔だ、どけ!!!」
「お前の方が邪魔してるんだよ!!」
ランナー達が男を言葉攻めにする。男はナイフを取り出して、振りかざした。
ランナー達が道をあけ、男は再び走り出そうとした。
その時。
「いい加減にしとけよ」
との声とともに、立花達の目の前で犯人は道路に叩き付けられていた。
サングラスをした茶髪の若者。テレビカメラがその姿を捉えている。
「・・・あ」
「兄貴・・・」
「全く、何なんだよ、この闖入者は。折角楽しく走ってたのに」
高崎はため息をつきつつ、汗を拭う。
「はい、犯人」
高崎は、相変わらずの外面で、立花へと犯人を引き渡した。
「走ってたんだ、龍」
「まあ、ね。またね」
そう言うと、高崎は走り去って行った。
「仕事選べよなぁ・・・」
という北条の呟きに、立花は苦笑した。
沿道へと入り、制服警官に犯人を引き渡した後に追いついた大下に、北条は
「で、運動不足解消出来た?」
と、ぽつり嫌みを言った。
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