007.円舞
「は?」

大下は、自分の耳を疑い、かっぽじった後、耳に手を当てて、聞き直した。

「ジョークだよね?」
「いいや。本気」

目の前にいるのは、鳩村。大下は、肩をがっくりと落とした。

「最近、見ないと思ったら、なにやってんかね、あの人は」

鳩村に頼まれて、鷹山はどうやら、ある組織に潜入しているらしい。
しかも、毎日3時間かけて、特殊メイクして。

「それって、鳩村と同じ顔してるから、顔バレしたらやばいってことだよね?」
「まあ、そうとも言うかな」

大下は、携帯を取り出した。

「何する気だよ」
「撤収指示するんだよ。何やらせるんだよ、一般人に!」
「まあ、待てよ。これは、鷹山も言い出した事なんだ。この間、鷹山がマークしていた暴力団の男が殺されただろ。あれ絡みなんだ」
「あんたらも、そんなタカにこれ幸いと潜入させた訳だ。・・・ふーん。いいのかね、警察がそんな事で。ブンヤにでも・・・」
「大下にも、活躍のチャンスはあるんだよ」
「だから、いいってば」
「お前、社交ダンス出来ないか?」
「は?」
「コウのフォロー頼みたくてな。実は、もう踏み込む用意はできてるんだ」
「・・・あのさ。お前の難点を言おうか」
「ん?」
「主語と述語がぼろぼろなんだよ。もっと、理路整然と話せないかな」
「お前からそんな台詞を聞くとは思わなかったよ」

んだと?  と半分キレかかっている大下を制して、鳩村が話したのは、こんな話だった。
鷹山がその男をマークしたのは、ある女性からの依頼だった。
その女性は、その男を組から抜けさせたい、という話だったのだ。
だが、鷹山がマークしていたせいで、鳩村と接触を持ったと勘違いされたのか、その男は殺されてしまった。
鷹山は、その組織を解明する事を密かに誓い、調べているうちに鳩村達に見つかり、お互いの利益のため潜入する事となった。

「ちなみに、特殊メイクは、龍のコネ」
「だろうよ。で、コウのフォローってのは」
「実は、一週間後に、仮面舞踏会をやるらしいんだ。そこで、取引がある。それの現場を押さえる、という筋書きなんだが、俺は司令塔だし、鷹山は既にバーテンダーとして潜入中だ。それで・・・」
「だったら、俺だってメンが割れていると思うんだが?」
「仮面舞踏会だって言ったろ?」
「で、社交ダンスってのは」
「仮面舞踏会だから。 踊れないとね。お前なら、出来るんじゃないかなって」
「残念だけど、俺、ヒップホップ派」
「お兄さんが教えてあげよう」

いーらーねーーーーーっっっ、つか、強制かよっ、という大下の叫びは、右から左に受け流されてしまった。


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