12月31日
「当港署では、大晦日から元旦への、山下公園等における、混雑緩和と、その際に起こりうる犯罪抑止のため、警戒態勢を強化する」
「・・・というお達し」 大下が、鷹山にさらりと言う。 いつもの横浜の風景とはひと味もふた味も違う、年末の風景。 「あ、そ」 鷹山も、そっけなく返す。 毎年毎年、繰り返される風景。 浮かれた市民達が羽目を外し、喧嘩沙汰はしょっちゅう。それに対する通報に、目の回るような忙しさ。 夜に入ると、さらに悪化して行く状況。 「ストレス貯まるんですけど」 山下公園を、警戒のため、徒歩で歩く二人。 と、にわかに騒がしくなっていた。 「喧嘩ですかねぇ」 大下が、これ幸いと急ぎ歩き出す。 酒、というものが、これまでに人の行動を変えてしまうものか。 「はい、喧嘩はやめようね・・・」 大下が大人しく、丁寧に間に割って入った。 「・・・って・・・」 大下を止めるために、出した左手を、鷹山は自分の元へと戻した。 「人が大人しく止めてやろうと思ったら、図に乗りやがって!! お前らみんなトラ箱送ってやるっっ」 一人が、持っていたカップ酒を、大下の顔にぶっかけた。 「あーあ・・・、火にアルコール・・・」 鷹山が一人呟き、相棒のサングラスを拾う。 「ふ、ふ、ふふ、ふふふふふふ・・・・」 男が大下の顔面目がけて、突き出して来たパンチを、しゃがんで躱し、そのままの勢いでボディに右を叩き込む。 「およ?」 男はコートの中の、スーツの襟首をとった。それを振り払おうとしたが、がっしりと掴まれ、びくともしない。 「あれ、柔道やってるな・・・」 コートの内ポケットから、ケントを出して、マッチで火をつけ、すっかりくつろぎムードの鷹山。すると、懐に入れた無線から、聞き慣れた声が響いて来た。 「山下公園で喧嘩の通報があるが、おまえらじゃないだろうなっ」 それは近藤課長の声。 「・・・説明欲しいですか」 これも毎年恒例。そのまま無線は切れた。 「離せよ」 口調は軽いが、どうにも手が振りほどけない。 「・・・・・!!!」 瞬間、息が止まる。 「ごほっ・・・タ、カ・・・」 首と腰を押さえる相棒に、ちらりと一瞥し、サングラスを返してやる。 「相手を甘く見るからそうなるんだ」 自分もサングラスを外し、コートのポケットへと仕舞い込む。 「てめ・・・・」 男の鼻先に、冷たい鉄の固まりを押し付ける。それは銃口だった。辺りのギャラリーもどよめく。 「さもないと、撃っちゃうよ」 さらに、警察手帳も提示。 「大人しく、連行されてくれないかな」
署のシャワーを使い、酒の匂いのするものは全て除去して、大下が着替え終わって捜査課の部屋に戻って来る。生憎、整髪料はなく、いつもの大下の髪型ではなく、前髪がさらりと落ち、ただでさえ童顔の顔が、さらに幼く見えている。 「はい、ご苦労さん」 微かに、鐘の音が聞こえて来た。 「あ、除夜の鐘だな・・・」 大下が耳を澄ます。 「警官になってから、紅白なんて見れないよな」 鐘の音が響く。微かに、だが力強く。 「煩悩、打ち払うための108の鐘だよな」 「だな」 「・・・・・無理そうだな・・・・」 「だな・・・・」 二人でため息をつく。 「なあ、タカ」
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