競パン戦隊・アクアレンジャー

 

「みなさん、大丈夫ですか!」

 アクアレンジャー・ジャスティスが駆け付けたのは、新宿駅のホームである。

時刻は、午前十時。

本来ならば、朝のラッシュが終わっているはずの時刻だが、一両だけ満員の列車があった。

車内にはすし詰め状態の乗客が、疲れ切った様子で身動きもできず立ち尽くしている。

長時間密閉されていた疲労からかジャスティスの声への反応も乏しい。

 駆けつけた警察関係者と駅の関係者が、ジャスティスに事の次第を説明する。

しかし、ジャスティスは彼らの説明を聞くまでもなく、状況を理解できた。

これはまぎれもなく、ダークネスメーソンの仕業であった。

電車は、奇妙な光沢のある素材でコーティングされていた。

この素材は、柔軟であると同時に固く、破壊することは難しい。

それ故、人々は電車内から出ることもできないのである。

「心配いりません。今すぐに、これを破壊しますから」

 このダークネスメーソンが作り出した悪魔の素材。

これを破壊できるのは、アクアパワーしかない。

レッドは、自らのエナジー生成器官に精神を集中する。

全エネルギーを使用した強烈なキックでなければ、電車内に閉じ込められた人々を

救いだすことはできないだろう。

ジャスティスの競パンに包まれた「それ」は、どんどん大きさを増していく。

下腹部から盛り上がる肉の塔が、あっという間に競パンの生地を持ちあげる。

「ふふふふふ、的が大きくなり始めた。これで外す心配もないだろう」

 この様子を遠くから眺める者たちがいた。

双眼鏡で、今まさに成長しつつあるジャスティスの「それ」を覗き込む者。

彼らはダークネスメーソンの狙撃手たちだ。

彼らの目的は、電車内に人間を監禁し、彼らを誘拐することではなかった。

本当の狙い。それは、アクアレンジャー・ジャスティスの暗殺である。

 一定の距離を置いて、ジャスティスの股間を狙う狙撃手は、一人ではない。

総勢十名のスナイパーたちが、あらゆる角度からアクアレンジャーの

エナジー醸成器官を狙っていたのである。

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 そうとも知らず、ジャスティスは無防備に自分の象徴にエナジーを送り続けていた。

彼には、目の前の乗客たちを救うことしか頭になかったのである。

この真摯さと実直さが、ジャスティスに隙を与えたのだ。

「へへへっ、もう少しで完全勃起状態だ」

 そんなジャスティスの様子を、狙撃手はいやらしい笑みを浮かべながら見守っていた。

ジャスティスのそれが、限界の大きさに達した時が、発砲のタイミングだ。

「そろそろ来るぞ……」

「10」

「9」

「8」

「7」

「6」

「5」

「4」

「3」

「2」

「1」

「0」

「発射」

 総勢十発の弾丸が、ジャスティスの局部めがけて発射された。

空気を切り裂く音をジャスティスは、ほんのわずかに聞きとった。

しかし、銃弾を避けるには、0.1秒遅かった。

全ての銃弾は、全てジャスティスの肉棒に命中した。

 ぶすっ、ぶすっ、ぶすっ、ぶすっ、ぶすっ、ぶすっ、ぶすっ、ぶすっ、ぶすっ、ぶすっ

「ぐあっ!」

 予想外の攻撃。

ジャスティスは思わず背を反らせた。

彼の競パンの下の肉棒には、小さな、ほんの小さなピンのような銃弾で貫かれてしまった。

銃弾があまりに小ぶりなため、競パンの生地が傷つくことはなかった。

しかし、それがもたらす痛みは甚大で、股間を引き裂かれるような激痛に、

気を失いつつあったが、そうはいかない。

ジャスティスは、銃弾を取り去ろうと、自分の股間にふれようとした。

そして、そこでさらなる奇妙な事態に気付いた。

「こ……、これは……」

 彼の肉棒を貫いた銃弾。そこから、ごく細い糸が伸びていた。

それは弾が飛んできた方向、弾道を示すかのように、遠くへ遠くへと伸びていた。

「へへへっ、アクアレンジャー・ジャスティス。お前の大事なところは、俺たちとつながったぜ」

 そう言いつつ、狙撃手の一人が、銃口から伸びる細い糸を、くい、と引く。

「ぬあっ……」

 その刺激に、思わず喘ぐジャスティス。同様の糸は、その他九本の弾丸にもつながっていて、

ジャスティスの肉棒は四方から糸でつながれたようになっていた。

あたかも、蜘蛛の巣にからめとられたトンボのようでもある。

「くっそ、こんなもの全部引き抜いてやる……」

 ジャスティスは、痛みに指先を震わせつつも、その糸に手をかけようとした。

「ふん、そうはさせないぜ。みんな、糸を引っ張るんだ」

 その掛け声と同時に、十本の糸が同じ方向に引っ張られた。

「ぐあっつ!!!!」

 股間を貫く激しい痛みに、ジャスティスは崩れ落ちそうになる。

しかし、ぴんと張られた糸が、それさえも許さない。

糸はそれぞれぐいぐいと、アクアレンジャーのいちもつを引っ張りつつ、

徐々に同じ方向へとそれを持ちあげていった。

「ああぁぁっ……、やめるんだ」

「さあ、あいつのエナジー生成器官を、腹に押し付けてやれ!」

 弾丸から伸びる糸は、ジャスティスの「それ」を後ろへと引っ張った。

アクアレンジャーのそそり立った肉棒は、まるで解体工事のために爆破された塔のように、

ばたりとその下腹部へと倒れ込んだ。十本の糸で、ねじ伏せられたジャスティスの局部。

それは小人の国で捕縛されたガリバーのようでもある。

「ぐあぁぁあぁぁぁっ……」

 そして、固定されてしまったのは、ジャスティスのエナジー生成器官だけではなかった。

この部位は、アクアレンジャーの全身の縮図。

この部分の拘束は、ジャスティスの全身の拘束と同義である。

彼は、腕をピンとのばし、首を反らせた状態で、完全に固まってしまった。

苦しげな表情と、苦しげな痙攣だけが彼がまだ生きていることを物語る。

この戦士のピンチに、監禁さらた乗客も息をのんだ。

しかし、彼らになすすべもない。

「あっぁあぁぁぁぁっ……、ぐあぁぁぁっつ」

遠のきそうな意識の中で、ジャスティスはなんとか正気を保った。

この痛みに負けては、監禁された乗客を助けられない。

自分は、アクアレンジャー・ジャスティス。正義の戦士だ。

その矜持が、彼の心を奮い立たせた。

「ぐおおおおっっ!!!!!!」

 ジャスティスは地響きのような声をあげた。

苦痛のうめきと明らかには違うその声。

これには、狙撃手たちも、びくりと驚いた。

そうかと思うと、ジャスティスは自分の股間からのびる糸を、全てむんずとつかんだ。

さらに、ぴん、と緊張する糸。

その拍子に、彼の股間に埋め込まれた弾丸も引きずり出そうになる。

その強烈な痛み。

しかし、ジャスティスはその痛みに耐えた。

かっと見開いた眼には、強烈な意志が宿っている。

「おりゃあ!!!!!」

 気合いの掛け声を出したかと思うと、ジャスティスは思い切り、糸を引っ張った。

ぐっ、と。まるで、マリオネットが、自分を操る糸を引きちぎるかのような強さで、

ジャスティスは糸を引いたのである。

「うわぁ!!!」

「ぐわぁ!!!」

「おわぁ!!!」

それと同時に、いたるところから悲鳴があがった。

彼が、渾身の力で糸を引いたのと同時に、その出どころである銃を持った狙撃手たちが、

身を隠していた場所から引きずりだされたのだ。

彼らは、アクアレンジャーの局部を狙うため、全員一定の高さの部屋に身を隠していた。

外へと引きずりだされた彼らは、もう落下するほかない。

銃を持ったまま、各人が建物の下へと落ちていく。

肉体が地面にぶつかる鈍い音が、辺りから響いてくる。

ジャスティスは、敵を完全に始末した。

しかし、アクアレンジャーの任務は、まさにこれからであった。

彼は、自分自身を拘束していた糸を投げ捨てると、そのまま握りこぶしを作った。

敵を引きずり出した直後で、しかも、自分の象徴に甚大なダメージを負ったジャスティス。

彼に残された力は、ほんのわずかだった。

しかし、気力だけが、彼を動かしたのである。

彼は堅く握った拳で、コーティングされた電車を殴りつけた。

最初、電車はびくともしなかった。

ジャスティスは、拳を電車に押し付けたまま、しばし動きを停止していた。

乗客も一言たりともしゃべらない。完全な静寂だ。

この一撃は、無駄だったのかもしれない。

そんな絶望感が辺りに広がった数秒後、ピキッと電車の壁に亀裂が走った。

その亀裂は、瞬く間に辺り一面に広がったかと思うと、古い漆喰の壁がはがれるように

バラバラと壊れていった。

密封された電車に、新鮮な空気が入り込む。

乗客の間から、安どの声が漏れた。

その間にも、電車に開いた穴はどんどん広がっていく。

そして、人が数人通れるほどの大きな空間となったのである。

乗客の顔には笑顔が戻り、自然と拍手が巻き起こる。

負傷しながらも、彼らを救助したジャスティスに喝采が送られたのである。

アクアレンジャー・ジャスティスは、その音をうわの空で聞いてた。

局部への十か所のダメージと、無理な体力の消費で彼の肉体は、限界に達していたのである。

割れんばかりの拍手の中、彼はふらりとよろめいたかと思うと、

膝をつくように、ぐったりと崩れ落ちた。

疲れ切ったその姿。しかし、そんな彼を狙うものはここにはいない。

彼の周囲に集まった人々、彼らはまぎれもなくアクアレンジャーの味方だった。