読了:2004.6以前
レビュー:2005.1.31
■そして粛清の扉を / 黒武洋 (新潮社) 第1回ホラーサスペンス大賞受賞作品
卒業式を翌日に控えた高校の教室で、その高校の女教師が生徒を全員人質に立て篭もった。
悪事ばかりを働くような生徒ばかりを集めたようなクラスを相手に、誰からも相手にされないような地味で陰気な中年の女教師近藤がまさか、と誰もが息を呑む。
しかし予想に反して用意周到にして緻密、冷酷且つ冷静な近藤の行動には警察の付け入る隙がない。
「こんな生徒達を社会に野放しにしていいと思いますか?」
信じられないほど正確な腕前で、生徒達を射抜いていく近藤の最初の要求は身代金だった。
学校やテレビ、そして果ては日本全国をも捲き込む警察と犯人の対決の行方は・・・。
・・・全ての始まりは、クリスマス・イブに起こった1人の少女の死だった・・・。
あまりにコロコロと生徒達が死んでいく有様は、なんとなく「バトル・ロワイヤル」を彷彿とさせますね。
でもこっちの方が先なのかな?出版したのは。
いやあ、とりあえずばんばん死にます。死にまくります。けど、あんまり残酷な描写があるわけじゃないかな。
教育問題について・・・と言うのはどうかと思うが、まあでも若者の暴挙であったり、思いやりをもてない行動の是非であったり・・・テーマはそういうところでしょうか。
もちろん「粛清」の名を語る近藤の行動を是とはしませんけどね。人は神ではないので、裁く権利もないので。
けれども、何かが狂って行く世の中への信号なんでしょうかね・・・。
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読了:2005.1.20
レビュー:2005.1.20
■鬼子母神 / 安東能明 (幻冬舎文庫) 第1回ホラーサスペンス特別賞受賞作品
保健婦を努める公恵に、ある母親から助けを求める電話が入った。
以前匿名で「母親が子供を虐待している」と通報の入った家庭であったことから、殺してしまいそうなほど虐待を自ら止められなくなった母親が救いを求めて電話をしてきたのでは、と同僚と共に慌てて現場へ駆けつける。
母親の敦子は放心状態、娘の弥音は頭部から多量の出血をしながら積み木で遊んでいた。
当初は敦子による弥音の虐待を心配されたが、入院した弥音への献身的な介護と父親昭夫の粗暴さ、そして敦子の顔にある暴力を受けた痕などから、昭夫による虐待へと疑惑は移行する。
昭夫と離れることを望む敦子と弥音の為に公恵は奔走するが、公恵自身、幼い娘美香へ向かう残虐な心を持て余している「虐待する母親」でもあったのだ・・・。
「保健婦」という母親の支えとなり、児童に対しては保護しなければならない立場と、それとは相反して自分の娘を虐待してしまう公恵。
献身的に娘を介護することに酔う敦子。
母親とはどうあるべきなのか。
子育てとは、正解があるのだろうか。
慈愛深い母神であるということと、残虐極まりない鬼であるということ。
母親とは、そういうものなのかもしれない・・・。
これも古いなあ。買って途中で飽きて放りっ放しになってたのを発掘してきました。
テーマは児童虐待でしょうか。子育ての難しさなどいろいろ考えてしまいました。
「保健婦」という守る立場にあるべき虐待とは無縁そうな人間が虐待を行ってしまっていたり、虐待を行いながら慈愛に満ちた存在として受け入れられていたり、深い愛を持っているにも関わらず拒絶されていたり・・・。
様々な、大人と子供の人間関係が交錯しています。
虐待を行ってしまう親も、生まれた時は嬉しかったはずです。「大切にしよう」「可愛がろう」と心に決めているはずです(もちろん一部例外の人もいるんでしょうが)。
それが、どこをどうして踏み誤ってしまうのか。
虐待をする自分を嫌悪し、憎悪しながらも尚止められない・・・。その心の深淵は、どんなものなんでしょう。
そして虐待を受けた子供の心の傷は、どんなに深いものなのでしょう。
幸いにして、わたしは虐待を受けたことはありません。
子供もいないので、もちろん虐待したこともありません。
なので想像するだけです。
けれども、いつ誰がその深みにはまるかは誰にもわからないのです。
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読了:2005.1.18
レビュー:2005.1.18
■ifの迷宮 / 柄刀一 (光文社文庫)
2年前の殺人事件の被害者池澤の遺体を遺棄したと供述する男が現れた。
ところが、村人に発見されたのはとても2年前に遺棄されたとは思えない、蝋人形さえ思わせる遺体・・・。
そして数日後、遺伝子医療研究で名を馳せる名家宗門の家から殺人遺体が発見された。
被害者は宗門家の娘宗門亞美。
亞美の顔と手足を暖炉の炎で焼かれるという有様は、身元の混乱を招く目的だったと思われた2年前に池澤の事件とほぼ平行して起きた串川の殺人事件を髣髴とさせた。
酸で歯まで溶かされていた串川の遺体、そして走っている車のトランクの中で死亡したと思われる池澤・・・。
捜査が進む中、担当刑事百合絵の夫朝倉真一の研究室を訪れた百合絵は奇妙なものを目にする。
亞美の身元確認の為に行われていた、亞美の両親宗門継信のDNA鑑定の信号・・・。
これは2年前に死んだ池澤のものでは・・・?
百合絵の疑惑を元に再度鑑定を行うと、2年前に死んだはずの池澤と19年前に死んだはずの継信はまったく同一の遺伝子を保有していた。
これは一体・・・!?
捜査陣を混乱に陥れた池澤と継信の鑑定結果のみならず、更なる混乱が捜査陣を見舞う。
つい先だって死亡が確認され、火葬された亞美の遺伝子までもが、続く殺害現場から発見されたのだ。
一体何が起こっているのか。
消えた死体と裸足の足跡とは?犯人と真相は一体どこにあるのか・・・。
割りと風評は高いようですね。意外すぎる真相、けれどもちゃんと「なるほど」と納得出来ること請け合いだと思います。
面白いは面白いですね。勉強にもなるし。
ただ、個人的には・・・ちょっとどうかなあと思うところがなきにしもあらずと言ったところ。
なんか・・・「え?で、結局これとの関連性は?何でこんなに事件出てきたの?」という感を受ける部分もあったり・・・。
いやね、全て解決してるんですよ、ちゃんと。きちんと納得出来る解を得られたと思います。個々の事件は・・・。
ただ個人的になんか流れが美しくないような気が・・・してしまったりもして・・・。
あとは「いくらなんでも、ちょっと都合良くはないだろーか・・・」と思う部分もなくはないというか・・・。 「納得出来る解答がある」「きちんと解決されている」と言っているのにこの感想って矛盾感じるかもしれませんが、読んでみたらわかってくれる・・・かもしれない。
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読了:2004.6以前
レビュー:2005.1.27
■脳男 / 首藤瓜於 (講談社) 第46回江戸川乱歩賞受賞作品
連続爆破事件の犯人を追う茶屋。
とうとう容疑者緑川の作業場になっている倉庫をつきとめ、他の刑事と共に踏み込むと、緑川が1人の男ともみあっていた。
刑事が乱入した隙に緑川は逃走、共犯者として緑川ともみあっていた男が逮捕された。
男の名は鈴木一郎。しかし過去の経歴などはいっさい不明で、精神鑑定の必要を判断された鈴木は医療センターへ送られる。
鈴木を担当することになった真梨子は、鈴木に心理テストを行っているうちに奇妙なことに気がついた。
この男は、人の感情を理解出来ない・・・?
会話は普通に行われるし、時にはユーモアさえ示すことがあり、まったくの健常者と変わらないように見えるが、何かが確かにおかしい・・・。
不審に思った真梨子は、鈴木一郎の身元調査に乗り出した。
鈴木は何者なのか。爆弾犯の緑川との関係は?そして緑川の行方は・・・。
これはシリーズものになる予定だったのかなあ・・・。
まあ、数年前に読んだものなので(しかも今はもう単行本化してるし・・・)、もしシリーズがあるならもうとっくに続きが出てることでしょう。
わたしは知りませんけども。
刑事が出てきて、大きな事件が出て来る割には、その事件そのものにストーリー性はあんまりなくって、爆弾犯は
ほとんど関係ないですね・・・主旨とは。刺身のツマとゆーか・・・盛り上げ役みたいな感じー・・・。
それがちょっとヤだかなあ・・・。
まあ、いいんですけど・・・。
医学的に難しい言葉とかいっぱい出てきます。
ちょっとラストもすっきりしないような気もするし・・・って結構手厳しい感想書いてます?
や、面白くないことはないと思います。
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