約束



                  「うわ〜可愛い〜!!」

                   香穂子は自分の腕の中ですやすやと眠る小さな赤ん坊の顔を見て
                  歓喜の声をあげた。
                   と言っても、まだ香穂子のお腹は膨らんだままで産まれたわけではない。

                   今日は天羽と二人、一足先に生まれた土浦と笙子の愛息の”恭”の顔を見に病院に
                 やってきたのだ。

                 「全体には笙子ちゃん似だよね?」
                 「え〜?でも眉とかは土浦くんの方だよ」

                   二人が赤ん坊の顔を交互に覗き込んでは話す内容に聞き入りながら、笙子は
                  穏やかな笑みを浮かべている。
                   もうすっかりと母親の顔だ。

                 「今度は香穂先輩の番ですね」
                 「性別は・・・聞いてないんですよね?」

                   近頃は事前に性別診断が出来るお陰で生まれる前にどちらか聞く母親が
                  多いようだが、香穂子はあえてそれをせずに産まれるまでのお楽しみにしていた。

                 「そうなの!もう準備するものは白いものが多くなっちゃったよ」
                 「そしてね、この子すごくやんちゃだから男の子かなって蓮と話してたんだ」

                   香穂子は慈しむ様に自分のお腹を優しく撫でた。

                 「やんちゃ?」
                  
                  不思議そうな表情を浮かべる天羽に香穂子はふふっと笑った。

                 「もうすごく動き回るの。蹴ったりするのも強くてね、落ち着きないみたい」
                 「こんなに元気なんだもんきっと男の子だよ」

                 「え〜案外香穂みたいな女の子かもしれないよ〜」
                 「ちょっと!それってどういう意味よ?」

                   意味ありげな視線を送る天羽に香穂子はぶ〜とむくれてみせた。

                 「どちらにしてもきっと可愛いですよ」
                 「月森先輩と香穂先輩の赤ちゃんなんですから」

                   まあまあと2人をとりなすように笙子が言った。

                 「そう・・かな?」
                 「はい!」

                   照れる香穂子に笙子は躊躇い無く頷く。

                 「私もね、どっちでも良いんだ〜」
                 「元気で生まれてきてくれたらそれで良いの」

                   香穂子は笙子と同じように母親の顔になると、腕の中で眠る
                恭に呟いた。

                 「もうすぐこの子に会えるから・・・そうしたらずっと仲良くしてね」

                  香穂子が呟いた数年後
                  蓮がヤキモチを妬くほどに2人が仲良くなることをまだ誰も知らない。
              

                  というわけで、短いですが久しぶりの更新です。
                  最近気づいたのですが、香穂子と月森が実家に引っ越してくる
                  エピソードを書くのを忘れていました(汗)