たとえ1%でも
その大きくて綺麗な手に憧れる。
あの指から紡ぎ出される音色に心奪われる。
耳を澄ますたびに。
貴方を瞳に映すたびに胸が苦しくて。
いつしか私の思考の大半を貴方が占めるようになった。
でも、いくら追いかけても貴方には少しも近づけなくて・・。
夢見る先は前途多難。
それでも賭けられずにはいられない。
たとえこの恋の勝率が1%の確率だったとしても・・・。
ギィ・・。
屋上の重い扉を開けると、どこまでも続く青い空が飛び込んできた。
一歩前に進むとキョロキョロと周りを確認する。
こんなにも気持ち良いお天気なのに香穂子以外の生徒は見当たらない。
それにホッとしたのもあり、がっかりしたのもあり。
ここには練習をしにやってきたのだが、音楽科の校舎で普通科の自分が
堂々と練習するのも気が引けるし、視線が気になる。
だから誰もいないのはホッとするのだが、会いたい人に会えないのは
やはりがっかりするものだ。
(ここならもしかしてって思ったのにな・・・・)
思い人の月森とは科が違うせいでこちらから動かないと話すどころか
会うことすら出来ない。
だから練習をしに音楽科までやってくる時は少しの期待を持ってやってくるのだが、
今日は残念ながら叶わなかったようだ。
落ち込む気分を払拭しようとヴァイオリンの準備を始める。
ベンチの上にケースと楽譜を置いた。
だが、まるで風がタイミングを計っていたように吹き始め、香穂子の楽譜を
空中に舞い上がらせた。
「あ!」
慌てて手を伸ばすが楽譜はからかうように香穂子の手をふわりと掠める。
飛ばされた何枚かは拾うことが出来たが、一枚だけは手すりの辺りをいまだ
彷徨っていた。
「ま、待って!」
下に落ちて森の広場まで飛ばされたら見つけ出すのは不可能に近い。
香穂子は慌てて吹き上がった楽譜に手を伸ばしながら手すりから身を
乗り出した。
「やった!」
おかげで楽譜は掴む事は出来たが香穂子の身体もぐらりと傾く。
「え・・・・?」
視界が反転したとき、後方からお腹の辺りに腕が回されて凄い力で
引き戻された。
「きゃ!」
その反動で勢い良く尻餅をついたが、思ったより痛くなかった。
「まったく君は何をしてるんだ・・・」
耳元に聞こえる声。
聞き間違いようのないその声に勢い良く目を見開いた。
「つ、つ、つ月森くん」
月森くんの綺麗な顔がこの上なく近い。
ただとっても呆れていたけれど・・・。
「とりあえず早く退いてくれないか?」
「へ?」
その言葉にようやく自分がどんな状況にいるかを把握した。
後ろから香穂子の腹部に回された月森の腕。
月森に寄りかかるように膝の上に座っている。
これはまさしく・・・。
(私、月森くんに抱っこされてる〜)
パニックになりながらジタバタと身体を移動すると、月森は
立ち上がって制服についた埃を払った。
「何を考えてるんだ、一歩間違えば大変なことになってたぞ」
「ご、ごめん。夢中だったから」
香穂子はその場に正座して項垂れた。
穴があったら入りたい。
「一つの事に集中して周りを気にしないのは君の悪い癖だと思う」
「はい・・・」
「そんなことだから君は目が離せなくて困るんだ・・」
「そうだよね・・・って、え!?」
月森を真摯に受け止め頷いていたが、最後の言葉には
驚いて顔を上げた。
月森も「しまった」と言わんばかりに慌てて口を手で覆っている。
「つ、月森くん・・・・」
「とにかく!これからは気をつけてくれ」
月森はそれだけを言い残すと逃げるよう屋上から出て行ってしまった。
一人ぽつんと取り残された香穂子。
(月森くん、今なんて言ってた?)
目が離せないと言ってはいなかっただろうか。
それってつまり・・・。
「いつも私の事見てくれてるってことだよね・・・?」
自分の発した言葉に急激に顔が熱くなっていく。
(バカ!ダメだよ本人から聞いたわけじゃないのに・・・でも)
あんな顔されたらやっぱり期待しまう
香穂子は嬉しくて自然と笑みが浮かんできた。
「明日は思い切って月森くんに合奏を頼んでみよう」
この恋の勝率はもしかしたら香穂子が思っているより高いのかもしれない
これも気に入らなくて書き直したんですがね〜。
それでも何だか変ですね。