空が堕ちるほどに    



                                         

                       あの人に出会ってから、私は風と夕焼けが嫌いになった。


                     「何で?」

                      昼休み、うちのクラスに取材と証して遊びに来ていた天羽さんが
                     向かい側の席に座って私の呟きをしっかりと聞いていた。
                      
                     「内緒」
                     「え〜教えてくれたって良いじゃん」
                     「ダ〜メ!!」
                   
                      天羽さんは「ケチ!」っと言いながら持参したお菓子を全て頬張る。

                      言えない・・・。
                      言えるわけが無い・・・。


                      こんな子供みたいな理由なんて・・・。

                      放課後。

                      練習を終えて外に出ると、空はイヤになるほど綺麗な夕焼け空だった。
                      そんな空を見つめて溜息をつく。

                      ふっと校門の方に目をやれば、空を見つめる姿勢の良い後姿を見つけた。

                     (ほら、やっぱり・・・)

                      今日も月森くんは夕焼け空を見つめているのだ。

                      気がついたのはいつの頃だったろうか?
                      彼を探してウロウロしていると、月森くんが帰り際に夕焼けを眺めている事が
                     多いことに気づいた。

                      毎日、彼を見つめているからわかること。

                      あの人の視線を独り占めする夕焼けは嫌い。

                      風は・・・私には触れることの出来ない彼の髪を優しく触れていくから嫌い。

                      こんなのバカバカしいってわかってる・・。
                      でも私には手に入れることが出来ないから・・・。

                      たとえそれが太陽だったとしてもどうしても嫉妬してしまう。

                      相変わらず夕焼けを見つめる月森くんを不安が入り混じる複雑な思いで
                     眺めていると、ようやく私に気づいた月森くんがこちらを向いた。

                     「日野・・来ていたのか?」
                     「気づくのが遅れたな・・すまない・・」

                     柔らかな表情を浮かべて月森くんは近づいてくるけど、私の気分は晴れない。
                     
                     なんで・・・?
                     なんで夕焼けを見てそんな表情するの?
                     夕焼けを見て何を考えているの?

                     「どうかしたか?」

                     黙りこくったままの私を、月森くんが心配そうに身を屈めて覗きこむ。

                     「具合でも悪いのか?」

                     その問いに私は首を横に振ると、月森くんをじっと見つめたまま聞いてみた。

                     「月森くんは・・・」
                     「月森くんっていつも夕焼けを見つめてるんだね」
                     「どうして・・・・」

                     最後は緊張して唇が震えた。
                     気づかれちゃったかな?
                     変に思ったかな?

                     月森くんは最初不思議そうな表情で私を見ていたけど、すぐにまた優しい顔に
                    なって空を見上げた。

                     「あぁ、夕焼けは君に似ていると思っていたんだ・・」
                     「私・・に・・?」
   
                     「何だかその暖かい色が君をイメージさせるんだ」
                     「暖かく青い空を包み込んで、夜を導く・・そんな感じだろうか」


                     それを聞いた瞬間、私は言葉が出てこなかった。
                     その代わり。きっと顔は真赤に違いない。
                     だってこんなにも熱いんだもの。

                     (じゃあ、月森くんが夕焼けを見てあんな表情をするのは私のこと
                    考えていてくれたから?)

                     もしかしたら・・コンクールが終わったらこの片思いは変化するかもしれない。

                     その思いは一つの勇気に繋がった。


               
                     ストックがあったのでUPしてみたのですが、もしかしたら
                    似たような話を書いたかもしれません。
                     あとから発見したらこっそり書き直します。