そんな風に笑うんだね
「やだ・・・あんた何してるの?」
良く晴れた土曜日の朝。
香穂子の姉は妹の部屋の惨状に目を丸くした。
「だって〜」
香穂子は下着姿のまま洋服を手に持ち、鏡の前に立っていた。
しかも床やベッドの上にまで何枚もの洋服が広げられている。
「何を着て行ったらいいのか迷っちゃって」
心底困ったように情けない声を出す。
「何で昨夜のうちに決めておかないのよ?」
「決めてたよ!決めてたんだけど・・・・」
勿論、昨夜も散々迷って決めたのだが、朝になっていざ着てみたら
何か違う気がして再び迷いだしたのだ。
それを聞いた姉は呆れたように溜息をついた。
そして何か思い立ったように意味有り気ににやりと笑う。
「そんなに迷うなんて・・・もしかしてデート?」
「っ!!」
途端に香穂子の顔が真赤になった。
何も言わなくてもそれだけでわかってしまうではないか。
「ち、違うよ!!ちょっと気分転換に付き合うだけだもん」
「でも、その気分転換にそんなに神経を使うって事は少なからず
あんたは好きなんでしょ?」
「・・・・・・うん///」
照れたような、それでいてふんわりとした優しい笑みを浮かべる
妹の姿に「あらあら」とこっちまで照れ笑いが浮かんでしまう。
(でも、それでか・・・・)
最近の香穂子は姉の目から見ても可愛くなった。
というより綺麗になったと思う。
そういう年頃というのもあるのだろうが、やっぱり恋は女を綺麗に
するものなのだ。
「でもその人、結構モテるんだよね・・・・・」
思い出したように視線を落とす香穂子の背中を元気良く叩く。
「だったらなおさらこういう時に差をつけないとね!」
床に散らばった洋服を丁寧に拾い上げ、香穂子に見立てて行く。
その中からオレンジのシャーベットみたいな色合いのキャミソール
のワンピースと薄手の白いカーデガンを選んだ。
それを香穂子に着させると鏡の前に座らせ髪を梳かし始める。
「あんたもさ、私に似て結構可愛いんだから自信持ちなさいよ」
髪をアップにした後に薄く化粧を施す。
若いから薄く、顔色を良く見せる程度だ。
ピンク色のグロスを唇にのせると良い出来栄えに満足そうに
何度も頷く。
「あ、もう行かないと」
仕上げに甘い香りのコロンをほんの少しだけ首筋につけると、
家を出るのにちょうど良い時間になっていた。
「次のデート権も勝ち取ってきなさいよ」
玄関先で見送りながらそう声をかけると、香穂子は振り返って
嬉しそうに笑った。
「うん!お姉ちゃんありがとう」
花のような人を惹きつける笑顔。
(あれを見せられて落ちない男なんているのかしら・・・?)
手を振り返しながらそんな姉バカなことを考えた土曜日の朝。
海のイベントの前って感じでしょうか。