ー 逢瀬 ー
たぶん愛してる。
いや間違いなく愛してる。
どんなに気がつかない振りしても、限度があるようだ。
総司は今更ながらセイへの恋心に気がつき、悩んでいた。
妻は娶らないと決めている。
その決心を変えるつもりは無いのだが、いつもセイが近くにいるせいか
色々と揺らぐ事もある。
セイに触れたい。
セイを独り占めしたい。
もっと違う運命だったら、今すぐ妻にしていただろうに・・
己の欲求は膨らむばかりでどう対処していいのかわからない。
隣には隊務に疲れ果て、布団に入るや否や寝息を立てるセイがいた。
総司も疲れているのだが、その寝顔から目が離せない。
手を伸ばせば、届く所にいるのに触れる事が出来ない。
なんともせつなくもあり、もどかしくもあった。
(せめて・・・・)
(せめて夢の中でくらい恋仲になれたらなぁ・・)
総司はそんなことを考えながらウトウトと夢の中へと旅立った。
暗闇の中にいた。
「ここはどこでしょう?」
辺りを見回しても、何も見えない。
妙に身体がふわふわとしていた。
「夢の中でしょうか?」
ただ自分の声だけが響き渡った。
急に心細さに襲われた。
一人とはこんなにも寂しくなるものかと思う。
(こんな場所でも、神谷さんと一緒なら幸せなんですけどね)
眠っていながらもそんなことを考える自分に苦笑いが出た。
「?」
気がつくと遠くからカラカラと音が近付いてくる。
「下駄の音?」
総司は音のするほうへ目を凝らした。
ゆらゆらと人影らしきものが近付いてくる。
近付くにつれ、辺りはだんだんと光に照らされて白けて来た。
「先生!?」
影は総司の姿を見ると、驚きの声を上げた。
「あは、神谷さんだ」
光に照らされ、姿を現したのは女子姿のセイだった。
我が夢ながら、なんと都合がいいのだろうと思う。
現では、思いを伝える事が出来ない分、せめて夢の中では
恋仲でありたいと願った。
その結果、セイが女子姿で自分の夢に現れたのだ。
夢まで操ってしまうとは人の念とは凄まじいものだと思う。
(まっ夢なんだし、思いっきり甘い雰囲気を味わいましょう)
総司はセイの白い手を握った。
セイが頬を赤らめて総司を見上げた。
「少し散歩でもしましょうよ」
「散歩って・・」
セイは困惑した。
自分達は暗闇の中にいるのだ。
散歩と言っても、どこへ向かっていけばいいのかわからない。
総司はそんなセイの考えを読み取り微笑んだ。
「大丈夫ですよ、神谷さんはどこにいきたいですか?」
「え・・?急に言われても・・」
セイは困ったように考え込んだ。
「じゃあ、今日は私に合わせてくださいね」
「夜桜を見に行きましょう」
「夜桜・・ですか?」
セイは首を傾げた。
今は夏である。
桜が咲いているわけは無い。
「大丈夫ですよ、私の夢ですからね」
総司がそう言うと、視界は光に包まれてたくさんの桜の木が姿を現した。
「うわぁ・・・」
セイが桜の木を見上げて感嘆の声を上げた。
暗闇の中、たくさんの桜の花びらが舞い落ちてきて雪のようだった。
「気に入りましたか?」
「はい!!」
総司の問いにセイが笑顔で頷く。
それだけでも十分に総司を幸せな気分にする。
「先生はどうしてこんなこと出来るんですか?」
「ふふふ、何だって出来ますよ」
「貴女の為なら、不可能だって可能にしてあげます」
「恋の力は偉大ですから・・」
総司の言葉にセイは真赤になった。
これがあの野暮天王の総司の言葉だろうか。
総司の方も夢だと思うと大胆になった。
普段、絶対言えない甘い言葉がすらすらと流れ出てくる。
「恋・・・ですか?」
「恋です!」
「それって、あの、私の事・・・・?」
「あなた以外に誰がいるんですか?」
「先生・・・・・・」
セイの瞳にみるみる涙が溢れ出した。
「神谷さん!どうしたんですか!?」
総司は驚いてアタフタし始めた。
「私、嬉しいんです」
「ずっと先生のことが好きで、でも叶わないと思ってたから・・」
「先生にこんな風に言ってもらえる日が来るなんて・・」
涙がぽろぽろと頬を伝った。
総司は優しく微笑むと指でセイの涙を拭った。
「私も嬉しいですよ、こんなに美しいあなたの姿が見れた上に
思いが通じ合えたんですから」
セイの身体を引き寄せるとそのまま抱きしめた。
「私もあなたを愛しています」
セイの耳元に囁く。
セイにはそれが甘く痺れさせる薬のように感じた。
「先生・・・」
セイは潤んだ瞳で総司を見上げた。
その愛らしさに総司の胸は高鳴る。
(これは!チャンスでしょうか!?)
総司はセイの頬を両手で包み込んだ。
それにあわせるように、セイも目を閉じた。
総司の心臓は早鐘を打つように鳴っている。
徐々にセイの唇に自分の唇を近づけた。
あと数ミリ。
セイの息を感じる。
(沖田総司!行きます!!)
唇を押し付けようとした瞬間、いきなりドンドンと太鼓の音が聞こえ始めた。
「へ・・?」
思わず、間抜けな声を出して止まった。
セイも閉じていた目を開けた。
「起床!起床!」
どこからかそんな声が聞こえてきた。
「起床?」
その言葉を呟いた途端、景色は再び光に包まれた。
「先生!?」
「神谷さん!!」
同じように光に包まれて消えようとしているセイを捕まえようと手を伸ばしたが、
届く事は無く宙をきるだけだった。
そして目を覚ました総司は、がくんと布団の上で項垂れた。
(あともう少し、ほんのちょっとで口づけ出来たのに・・・)
その姿は理由を知らない者から見ても哀れなほどだった。
「沖田先生どうしたんだ?」
「なんか、めちゃくちゃ落ち込んでるな・・・」
総司のあまりの様子に相田と山口は心配そうに遠くから見ていた。
「神谷は笑ってるな」
「あぁ、なんかめちゃくちゃ笑ってるな」
二人はその隣で顔を赤らめてにやけるセイを別の意味で心配した。
(きゃ〜、沖田先生とちゅ〜しそうになっちゃった)
ハズカシ〜と頬に手をあてて身を捩じらせている。
「神谷さん、何か嬉しそうですね・・」
げっそりとした総司が布団をたたみながら隣のセイに言った。
「はい!夢見が良かったので・・」
「先生は落ち込んでらっしゃいますね?」
「私は夢見が悪かったんです」
総司は溜息をついた。
夢とは儚いものである
(今度はもっと頑張ろう・・・)
総司は夢とは言えど、タイミングが大事だと言う事を悟った。
言い訳
逢瀬というよりも寸止めといった方が会ってるような話です。
私の友人が中学の時に「結構夢って思い通りに操れるよ」と
言っていたので考えました。
総司君煩悩の塊です。
そんな彼が夢の中でセイちゃんをモノに出来るかは
わかりません。
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