おそろい



                        寝付けない夜。
                        時計の針は深夜の一時を差しているのに香穂子のもとに
                       眠りは訪れる気配はなかった。

                        何度か寝返りをうち、目を閉じていたがとうとう身体を起こしてベッドから
                       抜け出した。

                        なんとなく、もやもやする心。

                        その理由は自分でもわかっている。

                        今日、香穂子は月森と些細な喧嘩をした。
                        原因はというと、月森があまりにも過度に香穂子の心配をするものだから
                       子供扱いされている気分になってしまい、ついムキになって
                      「蓮くんは私の事ちっとも信頼してない!!」
                       と言い放って先に帰って来てしまったのだ。


                      (あんなこと言うつもりなかったのにな・・・)


                        放課後はいつも月森と一緒に練習して色んな話をしながら帰って来る。

                        今日の授業であったこと。
                        次の休日に行ってみたい場所。
                        次に挑戦してみたい曲。

                        毎日ゆっくりゆっくりと歩きながらそんな話をする。

                        でも今日はそれがなかった。

                        それ故に満たされない心。

                        求め続ける彼のぬくもり・・・・。

                        香穂子ははあ〜と深い溜息を吐くと窓に近付いてカーテンを開けた。
                        窓から見えるのはぽっかりと丸い月。
                        今日か明日は満月だろうか?

                        綺麗な月には見惚れてしまうけれど、月森を思いださせて悲しくさせる。
                        香穂子の瞳に涙が溢れてきた。
  
                        ぼやける視界。

                        そこに家の前で動く人影が映った。

                       「え!?・・・・」

                        慌てて涙を拭うと視線を凝らして門の辺りを見つめる。

                       「れ、蓮くん!?」

                        そこにいたのは確かに月森だった。
                        月森も香穂子に気づき、手を軽く上げた。

                        慌てて外に向かおうとする香穂子に気づいたのか手でそこにいるように
                       合図し自分の携帯を指差した。

                       「け、携帯?」

                        香穂子はすぐに机の上から携帯を取ると再び窓に近付いた。
                        香穂子の携帯が点滅し、着信音が鳴った。

                       「蓮くん!」
                       「香穂子?こんな時間にすまない・・」

                        香穂子は窓から必死に身を乗り出して首を振った。

                       「良いの・・私も会いたかったから・・・」

                       「今日は・・悪かった・・・」
                       「香穂子を信頼してないわけじゃないんだ」
                       「ただ、自分がいない時に何かあって守れなかったらと思うと心配で・・つい
                      口煩くなってしまった」

                        香穂子の目に再び涙が浮かぶ。

                       「違うよ・・違うよ蓮くん」
                       「いつも守ってくれてる事に気づかない私はやっぱり子供なんだよ」

                       いつも月森は当たり前のように香穂子の隣にいて、守ってくれているから
                      気づけずにいた。

                       「私こそ・・ごめんね」

                        電話の向こうで月森が微笑む気配がした。

                       「会えて良かった・・・今日は放課後一緒にいられなかったから
                      眠れなかったんだ」
                       「気がついたら真夜中だと言うのにここに来ていた」

                        香穂子も微笑む。

                       「うん、私も眠れなかった・・」
                       「窓を開けて月を見てたら蓮くんが恋しくて・・そしたら本人がいるから  
                      びっくりしたよ」

                        互いを思いあう二人はそんな気持ちも同じだと思うととても幸せな気分だ。
   
                       「じゃあもう行くから・・・」
                       「うん、気をつけてね」

                       「あぁ、また明日・・」
                       「うん、また明日ね」

                        月森は香穂子に向かって手を上げる。
                        香穂子はその背中が見えなくなるまでずっと見送っていた。

                   

                        何も考えずに打ってたらこんな話になりました。