置いてかないでよ
夏の夜空に大輪の花が咲いている。
多くの人がそれを見上げていたが俺だけはキョロキョロと辺りを見回しながら
歩いていた。
今日はこの街の花火大会だ。
普段は人ごみが苦手な俺だが、今年は香穂子という恋人が出来たことだし
デートも兼ねて二人でこの花火大会にやってきた。
この辺りではかなり大きな花火大会だから人ごみもすごい。
昼間はどこに隠れているのだろうと思ってしまうほどだ。
やっかいなことに花火が上がる時間が近付くにつれ人ごみは更に増していく。
俺ははぐれないようにしっかりと香穂子の手を握った。
「香穂子、海側に出よう」
「あそこなら花火も見えるし、人もここより少ないだろう」
「う、うん・・・」
浴衣でやってきた香穂子は思うように動けないせいか顔色があまり良くなかった。
俺は少しでも彼女が楽になるように人をかき分けて前に進むがちっとも先に進んだ
気はしなかった。
この状態ではぐれてしまっては一貫の終わりだ。
絶対に香穂子の手だけは離すまいと力を込めたが、香穂子が途中で「蓮くん」と俺を
後ろから引張った。
振り返ると、香穂子が顔を顰めてよろめいている。
「ごめ・・ちょっと・・」
「どうした?」
その時、俺は香穂子に気を取られてつい油断してしまった。
横から流れてきた人に気づかずにぶつかってしまい、その拍子に手を離して
しまったのだ。
「れ、蓮くん・・・」
「ま、待って・・蓮くん!」
「香穂子!!」
俺も香穂子も互いに必死に手を伸ばしたが届かず、そのまま人の波に流されて
見えなくなってしまった。
それからというもの、懸命に香穂子を探しているのだがどこにも見当たらない。
履きなれない下駄だし、自分ではそんなに遠くには行ってないと思うのだが。
香穂子を探しながらウロウロしていると、良く女性だけの集団に声をかけられた。
こんな感じだと香穂子もナンパ目的の男に声をかけられているのではないかと
心配になってくる。
花火は連続して派手に打ちあがり始め、フィナーレも近そうだ。
ここまで探しても見つからないという事は、もしかしたらどこかで休んでいるのかも
しれない。
そう思って俺は公園の裏側を探し始めた。
あそこは周りのビルのせいで花火が見えないからだ。
さすがにこの辺りは人もまばらだし、寂しく感じる。
ぼんやりとした外灯を頼りにあらゆる場所を探していると、芝生の広場辺りから
「蓮くん?」という声が聞こえてきた。
「香穂子!?」
慌てて駆け寄ってみれば芝生の上に裸足のままペタリと座りこんだ香穂子がいた。
「どうした?怪我したのか?」
「下駄を履いてたから足が痛くなっちゃって・・・」
確かに足の指が赤くなっている。きっと鼻緒で擦れてしまったのだろう。
「もう・・花火終わっちゃったよね・・・」
「あぁ、さっき派手に打ちあがってた」
「一緒に見たかったのに・・ほとんどの時間一緒にいられなかったよ」
しょんぼりと肩を落とす香穂子を慰めるように頭を撫でた。
「今回ばかりはしかたないさ」
「俺の家に行こう。手当てをするから・・・」
俺は屈んで香穂子に背中を向けた。
「え・・・///?」
「ほら、おんぶするから・・」
照れる香穂子に早くのるように急かす。
「ごめんね・・」
「いや・・役得だ・・」
「?」
香穂子はどうやら気がついていないようだ。
背中から伝わってくる香穂子の体温と柔らかい感触。
俺の全身の神経がそこに集中する。
「香穂子。帰りにコンビニ寄って行こうか?」
「コンビニ?」
「そこで花火を買って俺の家で一緒にしよう」
「規模は小さいけれど、ゆっくり楽しめるから・・・」
「今日の所はこれで我慢してくれ」
ふっと香穂子が笑う声が聞こえた。
その吐息が俺の耳元にかかってくすぐる。
「ううん、そっちの方が蓮くんと二人で楽しめるから嬉しいかも」
そう言って香穂子はよりいっそう強く俺にしがみ付いた。
また書いてるうちにお題と違う話になってしまいました(汗)
最近こんなんばっかりですみません。
花火は確かコンビニにあったような気がするんですけど・・・。
そこんとこの記憶が曖昧です。