眠るヴァイオリン 3
先に来ていた客の対応を終え、自室で蓮と香穂子を待っていた伯爵を交え、
お茶会は和やかに進んでいった。
話題は大学時代の蓮の話と、フィリップの悪戯の数々だった。
話がフィリップが仕掛けたトラップに教授が見事に掛かった話になると、伯爵は
呆れたように額に手を当てた。
「まったくお前というヤツは留学先でまでそんなことをしていたのか。彼はコンクールで
何人もの優勝者を指導してきた大物だぞ」
「あまりにも見事なトラップだったから教授も返って感心していたくらいだよ」
悪びれた様子も無くスコーンに齧り付くフィリップにみんなの笑いが零れる。
「少しはレンを見習ったどうだ?そんなことではミシェルの将来のためにも・・・そういえばしばらく
ミシェルの姿を見ないがどうした?」
「それが・・先ほどから探しているのですが、どこにもいらっしゃらず・・・」
伯爵の視線を受けたメイドが困ったように話す。
「レンやカホコにもまだ紹介していないんだ。心配はいらないと思うけど、ちょっと探した方が良いかな?」
立ち上がるフィリップとルイーゼに続いて蓮も立ち上がった。
「俺たちも手伝おう。この城は広いから」
その言葉に頷いて香穂子も立ち上がろうとした時、けたたましく警報が鳴り響いた。
「この音は!?」
「私のコレクションルームのものだ!誰かがヴァイオリンに手を触れたんだ。泥棒かもしれない」
伯爵の言葉に一斉にみんなが部屋を飛び出した。
「コレクションルームは2階の最奥だ」
階段を駆け上がったところで蓮の足が止まり、その背中に香穂子がぶつかってしまった。
「痛・・た。どうしたの?蓮」
ぶつけた鼻を押さえながら香穂子は涙を浮かべて蓮に問うと、蓮は呆然と廊下の奥を見つめたまま
呟いた。
「この音は・・・」
「音?」
フィリップやルイーゼもようやく気づいたように立ち止まり奥を見つめる。
薄暗い向こうから悲しげなメロディーが微かに聴こえてくる。
「ひっ!」
ルイーゼが声にならない悲鳴を上げ、フィリップの腕にしがみつく。
「この悲しげなワルツのような曲は使用人が聴いたという曲だな」
伯爵の言葉に香穂子は首を横に振った。
「これは・・・・荒城の月だわ・・・・」
「コウ・・ジョ・・ノ・・・ツキ?」
香穂子の言葉を伯爵が不思議そうに繰り返す。
異国の城で突然耳に流れ込んできたのは良く知った日本の曲だった。
やっぱり3話では終わりませんでした(汗)
次に続きます。