無駄な心配をしてるのはわたしだけ




                       今年の冬は例年に比べてとても寒いと思う。
                       風呂に入っていつまでも濡れたままでいると、髪についた
                       水気が凍ってみぞれのようになっているときがある。

                       そんな時は、決まって神谷さんが怒った顔で走ってきて
                      乾いた手拭いでガシガシと私の髪を拭いていく。
                      ”風邪をひいたらどうするんです!!”と・・・・。

                       それを見た斉藤さんがちょっと不機嫌そうな表情でこう言うのだ。
                      ”大丈夫だ、神谷””何とかは風邪をひかんからな・・・”
                      ちょっと酷いと思う。
                       私が神谷さんの手を焼かすと斉藤さんは必ず不機嫌になる。
                       きっと組長としての情けないと思われているのだ。
                       しっかりしなければならないと思うのだが中々難しい・・。
                       この話を永倉さんに話したら微妙といった顔をしていたのが不思議だった。


                      「今日も随分と冷えますね」
                       冷え性の神谷さんが収穫時期の終わった田んぼで遊ぶ子供達に
                      目を向けながら寒そうに手をこすっている。
                       それを見た私はいい事を思いついた。
                      「寒そうですね、温めてあげましょうか?」
                       私が言うと、”え!?”と大きな声をあげ、真赤になった。
                      「あ、あた・・あたためるって・・・・・どうやって・・?」
                       私はどもりまくりの神谷さんの腕を掴んで背中合わせになると、
                      グイグイと押し始めた。
                      「おしくらまんじゅうです」
                       背中越しの神谷さんの力が抜ける気配。
                       いったいどうしたのだろう?
                       田んぼで遊ぶ子供達が私たちを見て笑った。
                      「沖田はんたち、葉っぱの裏のだんご虫みたいや」

                       だんご虫・・・・。

                       神谷さんがそれを聞いてぶつぶつと独り言を言い始めた。
                       せめて、てんとう虫が良かったと・・・・。
                       そういう問題?

                      「神谷はんもこっちおいでよ〜」
                      「氷が張ってて滑って面白いねん」
                       手招きする子供達のもとに神谷さんは走っていく。
                      「本当!?」

                       嬉しそうに子供達に混じる神谷さん。
                       あ〜ぁ。
                       何だかんだ言っても、まだあの人は子供なんだから。
                       氷の上を滑り始める神谷さんを見て、こっちまで笑みが零れる。

                       でも、大丈夫だろうか?
                       いくら寒いとはいえ、田んぼには陽が差しているのに・・・・。
                       心配はやはり的中した。
                       一部、氷が薄くなっていた箇所があったらしく、神谷さんはそこに
                     足を突っ込んでしまった。
                       ばりっと氷は割れ、袴まで冷たい水でびしょびしょになる。
                      「うわ〜!つっめた〜」
                       急いで足を引き抜いて道端に上がる。
                       足は見る見るうちに寒さから血色がひいていった。
                      「風邪ひいちゃいますよ」
                      「早く屯所に帰りましょう」
                       私は羽織を脱ぐと、神谷さんの肩にかけた。
                       そして背中を向けて座り込む。
                      「はい・・・」
                      「へ・・?」
                       驚く神谷さんの間の抜けた声。
                      「早く乗りなさい」
                      「それでは歩くのは辛いでしょう」
                      「背負ってあげます」
                      「背負うって・・・・」
                       それを聞いた子供達が一斉にはやしたて始めた。

                       照れて躊躇う神谷さんをせかす。

                      「早くしないと気が変わりますよ!!」
                       それでも躊躇う神谷さんの背中を子供達が押して
                      少し強引におんぶした。

                      「申し訳ありません。沖田先生・・・」
                       背中から聞こえる元気のない、かすれた神谷さんの声。
                      「貴女に風邪をひかれたら困りますからね」

                       あぁ、でも・・・・。
                       もし、神谷さんが風邪で寝込んだら・・・。
                       たまには私があなたの世話を焼くのも良いかもしれない。

                      翌日。

                     「すみません、神谷さん・・・」
                      私は頭痛のする頭を押さえて起きようとした。
                      それを神谷さんが手で制して布団に横にさせる。
                     「無理しないで下さい」
                     「冷えた私を背負っていたんですから、風邪をひいてもおかしくないですよ」
                      そう言いながら濡れた手拭いを私の額に載せてくれた。

                      あぁ、情けない・・・・。
                      まさか私が風邪をひくなんて。

                     「何とかでも風邪はひくんだな・・・・」
                      通りがかりの斉藤さんの冷たい視線が痛かった。


              
                      ちょっとギャグチックでしょうか?
                     氷に足を突っ込むのは私の子供の頃の経験から(笑)
                     お風呂掃除していて急に思いついた話です。(なぜ?)
                     短い話なのでするすると書けました。
                     いつもこうならなぁ(苦笑)

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