【交差する二つのこころ】



             香穂子Side


            (あ・・・月森くん)

           授業の合間の短い休み時間。
           香穂子は移動教室のために廊下を歩いていると、何気なく眺めた外の景色の中に
         月森の姿を見つけた。
           向こうも次は教室移動なのか、クラスメイトらしい男子と楽譜らしい紙を覗き込みながら立ち話を
         していて香穂子に気づいた様子はない。

           ガラスにそっと手をついてその光景に見入る。

           (こっち見ないかな・・)

         実際に気づかれたら絶対慌てるくせに、気づかれなかったらなかったで寂しいから恋心は我儘だ。

           (好きだって自覚する前は手を振るくらいのことは出来たのにな)

         再びそれが出来るようになるのはきっと恋が叶った時ではないかと思う。

           (でもそれってさ、どれくらいの確率?)
           
          見えない未来に胸がしめつけられた。

          気づいてほしい・・・。でも気づかないで・・・。
          もう少しあなたに恋していたいから・・・。

           伝えられない言葉をガラス越しに消えそうな声で呟いた。

           (あなたが好きです)


    月森Side


          何気なく普通科の校舎に目を向けると、3階の窓辺に良く見知った姿を見つけた。
          窓に片手を着きこちらにやや背中を向ける感じではあるが、あの赤みの長い髪は
        間違いなく日野だろうと思う。

          どうやら廊下で友人と話をしているようだったが、月森が気づいた頃にはこちらに視線を
         向けることなく歩いて行ってしまった。

         彼女も移動教室なのだろうか?

         そんなことを思いつつ、彼女がいた場所を見つめる。
         近いのに決して届くことのない距離。
         何だか今の自分達の状況に似たものを感じて自嘲した。

         手を伸ばしてもあのぬくもりは手に入らない。
         まさか自分がそんなものを欲する日がやってくるとは思わなかった・・・。

         初めての恋は痛みと戸惑いを伴った。

         自分だけのモノにならないのは解っている。
         だからせめて誰のものにもならないで欲しい。

         そんな我儘なことを考える。

         授業後、日野がいた場所に立ち、そっと窓に手を触れた。
         残っているはずのないぬくもりがそこにあるような気がした。