このあたたかい手から
桜の花びらが踊るようにひらひらと舞い落ちる。
悪戯に吹き抜ける春風にその光景は途切れる事はない。
薄紅色の花びらが私の足元を掠めた。
見上げれば桜の木にはだいぶ緑の葉が広がり、花は残り僅か。
その僅かな花たちが散って行こうとするのを、少し感傷的に
眺めている自分に気づいた。
「セイ・・・・?」
急に立ち止まった私に気づいた沖田先生が振り返った。
「すいません、今行きます」
慌てて駆け寄る私に先生は苦笑いした。
「まだ、女子の姿には慣れていないようですね」
着物姿の私は普通よりもだいぶ歩く速度は遅いようだった。
私は沖田先生に着いて行くのに必死だ。
それに気づいてか沖田先生の歩調もさっきよりもずっとのんびりに
なる。
「袴に慣れてしまったので・・着物がどうもしっくり来なくて・・」
「そうですか?とても似合ってますよ」
本当はこの姿が正装なのに、なぜか気恥ずかくて、先生があまりに
じっくり見る者だから頬がカァと紅くなる。
「こうしてみると、貴女も本当に大人になったんですね」
「何ですか?今更。あまり見ないで下さい」
ニヤニヤする先生の頬に手を当ててグイっと顔を逸らせた。
「きっと亡きお父上やお母上も驚くでしょうね」
「そんなの!」
「私が新選組に入るときに剃った月代を見て慣れたと思います」
頬を膨らませてそっぽを向くと、沖田先生がぷっと吹き出した。
「確かに・・・」
「娘に月代があるのを見て、ご両親もさぞや驚かれたでしょうね」
「でも・・・今日の私たちの報告を聞いたらまた驚いて
しまうでしょうね」
「・・・・・はい・・」
私がどこか感傷的になってしまうのはここに理由があるのだろう。
私たちはとある塔婆の前に立ち止まり、腰を下ろした。
水をかけ、花を添える。
線香に火をつけると、煙がゆらゆらと風に流れた。
静かに手を合わせる。
天国の父上、母上、そして兄上お元気ですか?
今日は報告があります。
セイは嫁ぐことになりました。
驚きましたか?
私はここに来るたびに驚かせてばかりですね。
一緒にいるこの人が旦那様です。
私が・・・共に生きたいと選んだ人です。
厳しいけれど、誰よりも優しく、温かい人です。
志に真っ直ぐな所が・・・父上に似ていると思います。
こんな事を言ったら父上はむくれてしまうでしょうか?
でも、セイはそんな所が大好きで・・・着いていきたいのです
大丈夫。後悔はありません。
先生と一緒なら・・どんな困難も乗り越えられる。
でも、みんなに花嫁衣裳を見せられないのはとても残念です。
一緒に喜んで欲しかった。
嫁ぐ事を・・そして新しい命の誕生を。
そっとお腹の上を優しく撫でた。
顔を上げれば、先生が優しい笑みを浮かべこちらを
見つめていた。
「報告は終わりましたか?」
「はい・・・」
「私も・・・ご挨拶させてもらいました」
「結婚を、許してもらえたでしょうか?」
「大丈夫ですよ」
「父は・・・沖田先生のように真っ直ぐな人でした」
「きっと、わかってくれます」
私はそっと先生の手を握った。
それに答えるように先生も握り返してくれる。
「そろそろ帰りましょうか?」
「はい・・・」
私たちは手を握り合ったまま歩き出した。
大丈夫。
このぬくもりがある限り、私たちは未来を紡いでいける。
父上、母上、兄上。
だからどうぞ・・・この幸せがずっと続くように祈っていて・・。
拍手御礼の総司と同一人物とは思えないですね。
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