君が微笑むから
「蓮くん、あれ見て一個だけハートの形してるよ」
香穂子が指差しているのは大きな観覧車の一つ。
今日、俺たちは以前やってきたことのある遊園地に来ていた。
あの時はコンクールメンバーが火原先輩によって強制参加をさせられた
が、今回は俺と香穂子の二人っきりだ。
前は集団行動で何かとバタバタとしていたが、今回はゆっくりと楽しむこと
が出来た。
色んなアトラクションを廻ったが、その最後の締めとして香穂子が選んだの
は観覧車だった。
その観覧車は見た目は普通の観覧車なのだが、良く見ると一つだけ
ハートの形をしていてカップルには人気があるらしかった。
「あれに乗りたいな〜」
香穂子は列に並びながら上を見上げて呟いた。
俺も釣られて上を見上げる。
そして降りてくる順番を数えて今度は前に並んでいる人数を数えた。
・・・・・・俺たちの前の二人があれに当たるな。
俺たちの前に並んでいたのは女の子の二人連れだったが、やはり
あのハートのゴンドラに乗りたいようだった。
やがて二人の前にゴンドラが到着し、乗り込んでいく。
それを見た香穂子はがっかりしたらしく、羨ましそうな表情を浮かべて
じっとハートのゴンドラを眺めていた。
俺たちはその後に来た普通の丸いゴンドラに乗り込んだが、相変わらず
香穂子は上のゴンドラを窓から眺めていた。
「良いなあ〜」
「だが、中は別にこれと変わらないんだろう?」
「そうだけど、やっぱりせっかく彼氏と来てるんだもん」
「ああいうのに二人で乗ってみたいじゃない?」
俺にはわからないがそういうものなのだろうか?
俺は香穂子と二人ならどんなものでも嬉しいが・・・。
(そういえば・・・・)
今まで意識しなかったが観覧車というのはかなりの密室では
ないだろうか?
そう思った途端少し悪戯心が出てきた。
俺は香穂子の向かい側から隣に移動する。
重心が傾いてゴンドラがぐらりと揺れた。
「わ!どうしたの?」
香穂子が驚いて俺を見た。
その隙に顎を捉えて唇を重ねる。
「ん・・・」
香穂子の漏らす声にクラリとしながらも更に深く吐息を奪う。
ようやく唇を離したときには香穂子の目は涙目になっていた。
「蓮くん!!」
香穂子が抗議の眼差しを向けてくるが、俺は成功した悪戯に大満足だ。
「確かに恋人同士でああいったものに乗るのもいいかもしれないが・・・」
「こういったことが堂々と出来るのも恋人同士だからじゃないか?」
「そうだけど・・・」
「空に一番近い場所でのキスだしな・・」
「え・・・?」
香穂子が窓から外を眺める。
俺たちの乗ったゴンドラは一番頂上に達していた。
「うわあ・・」
香穂子はそこから見える景色に感歎の声を上げた。
遠くに見える海。
それに徐々に姿を隠そうとする太陽。
水面がきらきらと赤く輝いているのが見える。
それと同時にゴンドラの中も赤く染まる。
この瞬間だからこそ見える景色だ。
「これを見るとこのゴンドラで良かったと思わないか?」
「うん・・・・」
素直に頷く彼女の横顔も赤く染まる。
口元に浮かべた笑みがやけに幸せそうで・・・やけに綺麗に見えた。
堪らずもう一度香穂子の肩を掴んで俺の方を向かせると唇を重ねる。
瞳で「どうしたの?」と訊ねてくる香穂子にそっと囁いた。
―― 愛しているよ ――
―― 何があっても決して離しはしないから ――
俺は君が愛しくてしかたないんだ。
他のお題で書いた話の続きといった感じでしょうか?
あれは片思いだったのでこれは両思いにしました。
何かまたまとまりが悪い気がするんですけどね。
気にしてたら本気で書けなくなるし・・・。