俯いても”あの人”の気持ちは見えてこない。

                  溜息をこぼしても答えはでない。

                  恋心とは宇宙のように果てしなく広がっていくもの・・・・・・。


                        気づいても引き返せない


                 

                 香穂子がその場所にいたのは、ほんの偶然なのだ。
                 そう、他意はない。
                 やましい事など何一つないはず・・・・なのだが。
                 香穂子は森の広場の茂みに身を隠して身動き出来ずにいた。

                 「申し訳ありませんが先輩と付き合う気はありません」

                 淡々としているがきっぱりとした月森の口調。
                 少し頭を上げれば、音楽科の女生徒と向かい合う月森の姿が見える。
                 女生徒の方は香穂子からは良く見えないが月森の物言いからして三年生
                のようだ。
                 えらい場面に出くわしてしまったと思う。
                 先にいたのは香穂子の方で後から女生徒と月森がやってきたのだが、
               気まずいのと気になるのとでここから立ち去れなくなってしまったのだ。
                  
                 「話はそれだけならこれで失礼します」

                 月森は冷ややかに言い残し、そこから立ち去ろうとした。
                 だが、女生徒は思いつめたような表情になり、擦れ違いざまに
               思いもよらない行動に出た。
                 月森の腕にしがみ付き、必死に引きとめる。

                 「なっ!」
                  月森も驚いて女生徒を振り返った。

                 「少しぐらいチャンスをくれても良いでしょ!?」
                 「試しに付き合ってるうちに本当に好きになるかもしれないじゃない!!」

                  その言葉に香穂子はドキリとする。
                  もしも自分が彼女と同じ立場だったなら・・・・・。
                  諦めきれずにきっと同じセリフを、同じ行動をするかもしれない。
                  それほどまでに香穂子だって月森が好きなのだ。
                  本当はこんな盗み聞きみたいなことはしてはいけないことはわかっている。
                  だが呼び出し相手が月森だと知ってしまったら、いてもたってもいられなかった。

                  音楽科の中でも成績優秀で、容姿も優れている月森はかなりモテる。
                  告白なんてよくあることだと天羽が言っていた。
                  月森が誰それに呼び出されたとか、告白されたと聞くたびに嫉妬や
                 不安で心がいっぱいになった。

                  月森に直接アピールしてくる女の子はみな、美人で自信たっぷりな子が多い。
                  もし、月森がその中の誰かと付き合い始めてしまったら・・・・。
                  今の香穂子のこの気持ちはどこへ行けば良いのだろう。

                 「放してくれ!!」
                  月森はむっとして彼女の腕を振り払った。
                     
                 「俺はどんなに粘られても貴女を好きなるなんてありえない」
                 「こんなことをされるのはいい加減迷惑だ!!」

                  月森の剣幕に女生徒は呆然としてしがみ付いていた腕を力なく放した。
                  そして両手で顔を覆うと静かに泣きはじめた。
                  香穂子の瞳にも涙が浮かぶ。
                  まるで自分が言われたような胸の痛み。

                  月森は茂みをかき分けて香穂子の前にやってきた。
                  地面に座り込み、涙を浮かべる香穂子がいたのでぎょっとしている。

                 「日野・・・・・・どうし・・・」
                 「あ・・・・」
                  香穂子は涙を拭い、慌てて立ち上がった。
                 
                 「ごめんね!盗み聞きする気なんてなかったんだけど・・・・・」
                 「何となく、出て行きづらくて・・・・・・」

                  語尾が消えてしまうほど小さな声になった。
                  月森と向かい合っていることが苦しくて香穂子はそこから走り出した。

                 「日野!!」

                  月森はわけがわからず、逃げるように去っていく香穂子に呼びかける。
                  その表情は心配そうで不安に満ちているが、背を向けている香穂子は
                 それに気づいていなかった。

                  コンクールが終わったら、この気持ちに区切りをつけることを決めている。
                  その時、もう一度月森の口からさっきの言葉を聞くことになるかもしれない。

                  それでも・・・・・。
                  わかっていても、この気持ちは引き返す術を知らない。

           
                  眠い中書いたから意味不明かも。
                  一応片恋お題は月森→←香穂子設定なんです。