一人でいても二人でいても満たされない






                          お馬でお里さんの家にいる時はとても臆病だ。

                          沖田先生に会えない寂しさと隊務で怪我をしていないか
                        不安なのだ。
                           
                          (沖田先生・・今頃何してるかな?)
                          (今日はお休みだからお菓子でも買いにいってるかも)

                          最近出来た和菓子屋さん。

                          形がとても綺麗な上においしくて、最近の沖田先生のお気に入り。
                          きっとそこでお茶を飲みながら和菓子を味わっているに違いない。
                          いつも私が着いて行くと「食べ過ぎるな」とかつい注意しちゃうから今日は
                        思いきり楽しんでいるに違いない。

                          (不安だよな〜)

                          あの和菓子屋の一人娘。

                          絶対!沖田先生に気がある(怒)
                          お菓子を食べてるといつの間にか寄ってきておまけとかしてるし。

                          いつも華やかな着物を着て、口元には艶やかな紅。

                          沖田先生の気を引くために、彼女は女子の自分を磨く。

                          かたや私は男にも女にもなりきれず、ここにこうしているわけで・・・。
             
                          (ダメだ!卑屈になっちゃう!!)

                          重い気持ちを払拭するように頭を振った。
                
                          沖田先生のそばにいない私はとても弱い。
                          いつまで一緒にいられるのかと・・そんなことばかり考えてる。

                          ずっとずっと傍にいたい・・・・。
                          沖田先生の見つめる未来に私もいたい。

                          でも、きっと先生は近藤局長と土方副長のことしか
                         考えてないんだろうなぁ。

                         「なんて強敵・・・」

                          あの二人を超えるなんて至難の業だ。


                         「こんにちは〜」
                          ガラガラと戸の開く音。
                         「神谷さん、お里さん、まぁ坊いますか?」

                          一番聞きたかったその声に私は駆け出した。
                         「沖田先生・・・」
                          沖田先生は私の姿を見てにっこり微笑む。
                         「良かった。元気そうですね神谷さん」
                         「どうしたんですか?」
                         「お菓子を買ってきたので一緒に食べようと思って・・・」

                           照れながら小さな紙袋を差し出した。

                         「一人で食べてもおいしくないんです」
                         「でも、屯所の他の人たちは誰もつきあってくれないし・・」

                            それはそうだろう。
                            沖田先生の食欲についていける人なんていない。
                            私だって最初は見てるだけなのにうんざりしてしまったくらいだ。
                            最近はだいぶ慣れたけど。

                          「神谷さんだけですよ、私と一緒にお菓子食べてくれるの」
                          「これからもずっと一緒にいてくださいね」

                            私は沖田先生の言葉に顔をあげた。
                            信じられない・・・。
                            私が一番欲しかった言葉。

                          「ずっと・・・・?」
                          「えぇ、ずっと・・・」
                          「私の計画では全国の美味しい食べ物を少しずつ探す予定です」
                          「神谷さんも一緒にやりましょうね」

                           私は嬉しくて涙が出そうになった。
                           誤魔化すように笑いながら茶を淹れる。

                          「はは・・全国なんて・・全部探してたら何十年もかかちゃいますよ」
                          「えぇ、だからずっとずっとです」
                          「全部終わるまで私と一緒にいてください」
                           お茶を差し出した私の手を、沖田先生は両手で湯のみごと包み込んだ。


                            神様。
                            私はとても贅沢の者です。
                            こんなに幸せなのにまだ私の心は満たされない。
                            心はどこまでも貪欲で・・・。
                            沖田先生との幸せを求めていっぱいになる事なんて無い。

                            それはきっと永遠に・・・。
                    
                    
                          この話は何度か書きなおしました。
                          これでもちょっと書き足りない感じ。

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                          「その時は神谷さんも一緒ですよ」
                           思いがけない沖田先生の言葉に顔をあげた。

                           そこには無垢な笑顔があった。