土方さんといっしょ
土方は朝一番にそれを見るなり眉間に皺を寄せた。
「何だこれは?」
総司が土方とは対照的ににこやかに答える。
「見ての通り私の娘の桜ちゃんです」
イヤだな〜、忘れちゃったんですか?と一段と高く抱き上げ
桜を土方の目の前に押し出す。
「みりゃぁ、わかる」
「俺が聞きたいのは、なぜ桜が屯所にいるかってことだ」
「あぁ、それはですねぇ」
総司は桜を抱っこしたまま困ったように溜息をついた。
「セイが風邪をひいて寝込んでしまったんですよ」
「熱はないんですけど咳きがひどくて・・・」
「本人は大丈夫だというんですが、桜の面倒で忙しくて身体がちっとも
休まらないでしょ?」
「だから連れて来ちゃいました」
てへっと首を傾げて笑う総司を見て無性に腹が立った土方は
力いっぱいその頭に拳骨を振り下ろした。
「痛い!何するんですか!?」
涙目になりながら片手で頭を抑える。
衝撃で桜を落とさなかったのはさすがだろう。
「お前は子供を抱いたまま仕事をするつもりか!?」
「もし、不逞な輩と出くわしたらどうするつもりだ?」
「桜を抱いたまま刀が抜けるか!?」
凄い剣幕で怒る土方に総司は心外だとばかりに口を尖らせた。
「もちろん、桜は屯所においていきますよ」
「ここにいる間は誰が面倒みるんだ?」
「局長と土方さんVV」
再び土方は総司の脳天めがけて拳骨を振り下ろした。
「痛い!!二回目!?」
「バカになったらどうするんですか!?」
「それ以上はバカにならねぇ!!」
「痛い上に酷い!!」
「まぁまぁ、トシ・・・」
今まで少し離れた所から二人のやり取りをみていた近藤が苦笑しながら
土方の肩に手を置いた。
「今日だけなら良いじゃないか」
「神谷くんの体調が悪いなら仕方がない」
「神谷くんだって除隊したとはいえ、我々の大事な仲間だ」
「その仲間が困っているのだから助けてやらなければ・・・」
「近藤先生・・・」
「やっぱり土方さんと違ってやさしい〜」
土方に殴られた痛みからか、はたまた近藤に感動してなのか
総司は眼を涙で潤ませた。
「どれ?かしてみなさい」
近藤は総司の腕の中から桜を受け取る。
「私にとってこの子は孫みたいなものだ・・・」
「ここは子供のいる私が面倒をみよう」
安請け合いする近藤を見て、土方は「本当に大丈夫か?」と
内心不安になった。
そして不安は的中する事になる。
総司が立ち去って半時ほど。
昼寝をしていた桜が突然泣きはじめた。
「お、どうした?桜・・・」
近藤が抱き上げ、よしよしとあやすが一向に泣き止まない。
「おかしいなぁ?さっきおしめをみたばかりなのに」←(見たのは土方)
「腹減ったんじゃないのか?」
土方が手元の書類から目を離さずに答えると、近藤は「そうか!」
と膝を打った。
「よしよし、ごはんだな?」
近藤は桜を一度寝かせると「待ってろよ」と賄い所に向かった。
しばらくしてふと書類から顔を上げた土方はぎょっとした。
近藤がおも湯を桜に食べさせようとしている。
いくらなんでもそれは少し早すぎる。
「だ〜!!」
慌てて駆け寄り、桜を近藤から取り上げた。
「おもゆは乳離れしてからだろ!!」
「え〜?じゃあ桜のごはんはどうするんだ?」
「近所の女に乳を分けてもらえ!」
「そして飲ませたらゲップさせるんだ!!」
近藤は感心したように土方を見た。
「すごいなトシ、何でそんな事知ってるんだ?」
「あんたは何で知らないんだ!!」
「イヤ〜俺は剣一筋で子育てはあんまり・・・」
恥ずかしそうに笑う近藤に土方は呆れた。
「だったら安請け合いするな!」
「もう良い!こいつの面倒は俺が見る!!」
巡察から戻った斉藤率いる三番隊は土方の姿を見て顔を引きつらせた。
土方は背中に桜を背負ったまま指示出ししている。
そこにはいつもの厳しい雰囲気は感じられなかった。
まるで肝っ玉母さんそのものだ。
それからしばらくして、それを目撃した隊士たちのあいだで、
里の母親に手紙を送る者が多かったという。
久しぶりに書きました。
桜と沖セイ夫婦設定。
近藤さんと土方さんファンの方ごめんなさい。