花飾り
「これは何ですか?」
セイは一枚の紙を見てにっこり笑って原田に聞いた。
いつもなら思わず見とれてしまうのに今日に限ってはゾッとしてしまったのは自分だけなのだろうか?と総司は思う。
「見ての通りだぜ・・」
「姫って書いてありますが・・・?」
セイから紙を受け取りながら原田は嬉しそうに頷く。
「まさか本当に神谷に当たるとはな〜」
「書いてみるもんだね、原田さん」
横から覗き込みながら藤堂もにこにこしている。
「なんなんですか?いったい・・」
セイの身体はわなわなと震えだして今にも原田に飛び掛りそうだった。
「何だよ、忘れちまったのか?」
「さっき、今度の宴会は普通にやってもつまらねぇからみんなで仮装しようって言ったじゃねぇか?」
「覚えてますよ!それ位!!」
原田たちの案により次の宴会はみんなが籤を引いて書いてあったものに仮装しようと言う事になり、参加するメンバーに一枚ずつ紙が配られそれぞれが思いついたものを書き、ごちゃまぜにして一人づつ引いていったのだ。
その結果、総司が桃太郎、原田が天狗、斉藤がねずみ小僧、藤堂が光源氏、永倉が赤穂浪士、井上が浦島太郎となりそして・・・
「何で私だけ女なんですか!?」
「何でって籤に当たったからだろ?」
「しかし良かったぜ〜、これが源さんになったらどうしようかと思ってたんだ」
「失敬な!ワシがやってもそれなりに美人じゃわい」
「それ本気で言ってんのか?源さん」
井上が真面目に言うので永倉は呆れ返った。
「と・に・か・く!」
「私は男です!女子の格好など出来ません!!」
「大体、この宴会だって藤堂先生が切腹になるかもしれないからと始まった名残の宴れぼりゅーしょん?じゃないですか!」
「いったいいつまで続けるおつもりですか!?」
プイっとそっぽを向き、力一杯拒否をするセイに対して原田は珍しく冷静に言った。
「そうは言ってもよ〜神谷」
「本当の男はこんなちっちゃいことで怒ったりしないと思うぜ?」
「ぐっ!」
原田の言葉にセイは言葉を詰まらせる。
「こんな事でイチイチ怒ってると器が小さいと思われちまうぞ?」
それが効いたことに気づいたのか原田も更にもう一押ししてきた。
(あ〜ぁ、よりにもよって神谷さんの一番弱い言葉を・・)
総司は溜息をついて次に出てくるセイの言葉を予想した。
「わかりました・・・・」
セイが俯いて小さく呟いた。
「この神谷清三郎!本物の女子に見紛うほどになって、器が大きい事を証明して見せます!」
力いっぱい宣言すると周りはやんやと囃し立てた。
(やっぱり〜)
総司はただ一人、がくっとうなだれた。
(予想どうりって言うか神谷さんあなた・・・)
(最初から女子じゃないですか・・・・?)
宴会当日。
幹部も平隊士も参加する者はどこで手に入れてきたのか不思議に思うほど、それぞれの衣装をばっちり身に着けていた。
みんなが目に付いた相手の衣装について評価しあい、盛り上がっている中で突然部屋がシ〜ンと静まり返った。
「?」
部屋に足を踏み入れたセイは自分に注がれる視線に気がついて心配になった。
「沖田先生、やっぱり私変ですか?」
「いいえ、とってもきれいですよ!」
(綺麗過ぎて困ってしまうぐらいですよ)
もちろん他の隊士だって変だと思う者は一人だっていなかった。
大名の姫君風に着飾ったセイを見て、あまりの美しさにみんなが見惚れて言葉を失ってしまったのだ。
(あぁ、なんでしょうね?みんなあんぐりと口を開けっ放しで・・)
(そんなに物欲しそうに見ても・・・)
(神谷さんはあげませんからね!)
ぐっと拳を握って総司はセイを守り抜く事を心に誓った。
ちなみに総司は桃太郎の格好をし、その肩には布で作られた雉や猿や犬の人形が(ぬいぐるみともいう)つけられていて別の意味で視線を集めていた。
宴会が始まると総司の予想通り、セイを狙うものが次々と酒を持って現れる。
「神谷、一緒に飲もうぜ!!」
原田が徳利を持ってやってきた。
「いえ、私はお酒は控えてますから・・」
「固い事言うなよ!」
強引にセイに猪口を持たせて酒を注ぐ。
(やっぱり来ましたね、原田さん!)
総司の目がキラッと光った。
(幹部だから神谷さんが断れないのをいい事に酔わそうっていう魂胆は見え見えですよ!)
総司はスッと立ち上がると、ちゃかぽこと茶碗を叩いている藤堂の傍にやってきた。
「あれー?どうしたの総司」
「それ貸してもらえません?」
総司は藤堂の横に転がっていた物を指差した。
「いいけどこんなのどうするの?」
「蹴鞠は蹴るためにあるんですよ」
総司がそう答えながら浮かべた笑みを見て、その日藤堂は日記に必ず書きとめておこうと思った。
(あんな総司の微笑みは始めて見ました・・・・(怯))
最初は人目につかない所でポンポンと軽く蹴っていたが、原田の死角に入ると原田目掛けてドライ○シュートばりに蹴鞠を蹴り飛ばした。
「がふ!」
側頭部に蹴鞠が命中した原田は白目をむきながらピクピクと痙攣してその場に倒れた。
「あれ?どうしたんですか?原田先生」
セイはピタピタと原田の頬を叩いた。
一瞬だけ意識を取り戻した原田が一言だけ呟いた。
「テンプルなんて・・」
そして再びガクッと意識を失った。
「へ?」
「てんぷるって何ですか?」
原田を揺さぶり続けるセイを総司はそっと止めた。
「そのままにしておやりなさいよ」
(あんまり揺らすと本当にやばいですし・・・)
「きっと酔払って寝ちゃったんですよ」
総司は、さもさっきからいたかのようににこやかにセイに話した。
「しょうがない人ですね〜」
「なんかさっき、てんぷるって言ってましたけど?」
「きっと寝言ですよ」
(ひと〜り)
「あれ?左之は?」
キョロキョロとして永倉がやってきた。
「別の部屋でお休みになってますよ」
「こんなに早く出来上がるなんてめずらしいな」
永倉はセイの前にどかりと座った。
「永倉先生は赤穂浪士なんですね?」
「おう!似合ってんだろ?」
「はい!かっこいいです」
やがて会話は芝居の事へと移っていき総司が入る間もなく盛り上がっている。
総司はそんな二人の会話を聞いてじわじわと嫉妬の炎を燃やした。
(神谷さんてば私にはかっこいいなんて言ってくれたこと無いのに!)
(これ以上仲良くなる事は許しませんよ!永倉さん!!)
(悪寒が・・・)
永倉は殺気を感じたのかぶるっと身体を一震いさせるとおもむろに立ち上がった。
「ちょっと厠に行ってくらぁ」
「はい」
それを見て総司もチャンスとばかりに立ち上がり後を追った。
永倉が用を足して出てくると暗くて長い廊下の上にぼんやりと白い物が置いてある事に気がついた。
「あれは・・・?」
近付いて見るとそれは自分が探していたものである事に気がつく。
「やっぱり!土方さんに没収された春画本じゃねぇか!」
「あの後、部屋に忍び込んでさんざん探しても見つからなかったのに何でこんな所に?」
本を取り上げて喜んでいると自分の足元でシュルッと何かが動く気配がした。
「へ?」
あっという間に両足を捕られ逆さに巻き上げられる。
「ガン!ぐえ!!」
ズルズルと引き上げられながら揺れたので頭を縁側に強打し、意識が遠のきそうになった。
「それはね、土方さんの物は私の物だからどこにあるかなんてすぐにわかるんですよ」
「ちなみに最初から私の物だったものは後になっても私だけの物ですけどね?」
(どういう理屈だよ・・・)
永倉は遠のく意識の中で誰かわからないまま心の中で突っ込んだ。
(ふた〜り)
「さ〜て、邪魔者は排除しましたしこれで神谷さんとゆっくり宴会が楽しめますね」
総司はスキップしながら宴会場へと向かった。
「あれ、神谷さん?」
少し離れた場所で姫姿のセイと誰かが立っているのが見えた。
「離して下さい!」
セイは嫌そうに掴まれた腕を振り払おうとした。
だが、でっぷりとした体格の相手には痛くも痒くもない。
「俺の方が先輩なんだ」
「言う事を聞いたらどうだ!?」
「いた・・」
力づくで引き寄せられ掴まれた腕が血の気を失っていく。
この相手と向き合った時から酒の臭いがプンプンしていた。
(相当に酔ってる、この人)
どうやら相手も酒癖は良い方ではないらしい。
同じ平隊士なのにこの態度である。
こうなってはまともに話して通じる相手ではなかった。
だからといって力で捩じ伏せられるわけじゃない。
(どうしよう・・・)
動きにくい衣装で神谷流もやりにくい。
「ここで何をしてるんです?」
「沖田先生!」
総司が相手の肩を掴んでいた。
ほっとして目に涙が浮かんでくる。
「神谷さんを離して下さい」
セイの腕を掴んでいる腕を更に総司が掴んで捻った。
「あいたたた」
男が痛がって手を離すとその隙に総司はセイを自分の後ろへと隠した。
「ワシが先に声をかけてんだ!」
「ワシのもんじゃ!」
男は逆上して幹部である総司の胸倉を掴んできた。
「無礼者!」
それを見たセイがカッとなって力いっぱい叫んだ。
(組長の判別もつかないなんて・・)
「やれやれ、困った人ですね」
「物事の区別がつかなくなるほど飲みますか?」
総司は刀を抜いた。
「沖田先生!?」
総司が刀を振り下ろすとドシンと男は廊下の上に横たわった。
「先生!いくらなんでもやりすぎですよ、斬るなんて」
セイが慌てて男の安否を確認した。
「ちゃんと刃引き刀ですよ」
「刃引き?」
「仮装したときに変えたんですよ」
「な、なんだ・・・」
「びっくりした〜」
セイは自分の胸に手を当ててふ〜と息を吐いた。
「びっくりしたのはこっちですよ!?」
「なんでここにいるんです?」
「だって・・・」
「だって?」
セイは人差し指の先同士をつんつんと合わせながら膨れていった。
「沖田先生いつの間にかいなくなってるし、全然帰ってこないから・・」
「探しに来たらあの人に絡まれちゃったんですもん」
セイは頬を薄紅色に染めながらそんな事を言った。
(か!・・・)
(可愛い!!)
思わずセイを抱きしめる。
「お、沖田先生!!/////」
(まったく、可愛いんだから・・)
「独り占めしたいなぁ」
「え?何か言いました?」
セイは抱きしめられながらも総司を見上げた。
「いえ・・」
「ねぇ、姫君」
総司はセイの頬に触れながら言う。
「今宵、貴女を守ったこの下僕に褒美を頂けませんか?」
「褒美?」
「そうご褒美」
総司は自分の唇に人差し指を当てるとそのままセイの唇にそれを移した。
「先生/////」
「ね?いいでしょ?」
「もう・・・しょうがないですね」
セイは総司の袖を掴んでそっと背伸びをすると、目を閉じて待つ総司の唇に軽く自分の唇を押し当てた。
セイが唇を離すと総司はにっこり笑っていた。
「有難く頂戴しましたよ、姫君」
総司がその後思ったこと・・・それは
(たまにはしてもらうのもいいかもしれない)
だった。
余談、
ねずみ小僧に変装した斉藤さんはというと、颯爽と現れて
「あんたの心を盗みに来た」という決め台詞をセイにいうためにタイミングをはかって隠れていたが、総司とセイの口づけを見てしまい何もしないまま
玉砕した。
あとがき
ぼたん様よりリクエスト頂いた
ラブラブ沖セイで宴会でチュウ付きの筈だったんですが
何やら総司がかなりアホっぽくなってしまい、しかもラブラブだか微妙なものとなってしまいました。
しかもタイトル意味ないし・・
ごめんなさい。<(_ _)>
私にはこれが精一杯でした。
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