clover




                         それは何となく見ていたテレビで言っていたこと。
              
                         四葉のクローバーの葉の一枚一枚にちゃんと意味があるんだって。

                         Fame  (名声)

                         wealth  (富)

                         Faithful Lover  (満ち足りた愛)

                         Glorius health  (すばらしい健康)

                      
                         そして四枚揃った意味は True Love 〜真実の愛〜


                         それを聞いた時、とても素敵だと思った。


                         でもね、四葉のクローバーを見つけられる確立は10万分の1なんだって。

                         何て途方も無い数字。

                         でも、真実の愛に出会える確立もそれくらい途方も無いこと
                        なのかもしれない。


                      「じゃ〜ん!見てみて!!」

                        友達がまるで芸能人の婚約発表の時みたいに自慢気に手の甲を返して
                       見せた。

                      「お!指輪じゃん。彼からもらったの?」
                      「そうなの!この間デートしたときに買ってもらっちゃった」

                        嬉しそうに眺める彼女の薬指には小さな紅い石のついた指輪が輝いていた。

                      「あんたの彼、リッチだよね〜」
                      「良いな〜。私も彼氏欲しい」

                        一緒にいた彼氏のいない二人が深い溜息をつきながらストローでアイス
                      コーヒーの入ったグラスをかき混ぜる。
                        中に入っている氷がカランと音を立て、クリームと共に円を描く。

                        私はストローに口付けながら二人の仕草をぼんやりと眺めていた。

                       「香穂子は?」
                       「へ?」

                         急に話を振られ、我に返って出た声は間の抜けたものだった。

                        「あのかっこいい彼に指輪とかもらってないの?」
                         
                         一人の言葉を聞いて、残りの二人が興味がありますと言わんばかりに
                        身を乗り出してくる。
                         3人の期待する目に私は少々戸惑いながらも苦笑いを浮かべた。

                        「月森君のこと?」
                        「貰ってないよ。指輪は楽器を傷つける可能性があるし、それに私たち
                       付き合い始めたばっかりだしね」

                        「え〜!?でもさ、やっぱり香穂子だって憧れるでしょ?」
                        「彼に指輪とか貰うの・・・」

                         それはね・・私だって興味がないって言ったら嘘になる。
                         でも、楽器を扱う者としてはやっぱり指輪とかは避けたいと思っている
                        のも本音だし・・・。

                         今度は私から深い溜息が零れた。

                         どちらにしても、女心に敏感な人ではない彼には期待をすることは
                        出来ないだろう。




                       「どうした?元気がないが・・?」

                         数日後、放課後に寄り道をした帰り道。
                         月森くんは少しだけ眉間に皺を寄せて私の顔を覗きこんだ。
                         あんまり表情が豊かな人ではないけれど、それでも付き合い始めて
                        知った彼の微妙な心の変化。

                         どうやら浮かない顔をしていたから心配させてしまったらしい。
                         私は不安を払うように気を取り直して笑顔を浮かべた。

                        「何でも無いよ。最後の授業が体育だったからちょっと疲れただけ」
                        「体育か・・音楽科も無いわけではないが、怪我をしないように考慮されている
                       からその点でも普通科の方は大変だな」

                        「ん〜、怪我しちゃうのは困るけどでも私、体育嫌いじゃないよ」

                         そんな取り止めの無い話をしながら歩いていると、あるお店の前を通り
                        掛かった時に飾られていた指輪が目に飛び込んできた。

                         シルバーのクローバーの飾りのついた指輪。
                         とても可愛くて通り過ぎながら眼でついつい追いかけてしまった。

                        「さっきのお店に何かあったのか?」
                        「え・・?」

                        「何か熱心に見ていたようだったから・・・」

                         彼は女の子の気持ちに敏感な人ではない。
                         でもどういうわけだか、私のほんの一瞬の行動を見逃さない。
                         今だってそうだ。
                         私が指輪を目で追いかけていたのなんてほんの一瞬だったのに・・・。

                         彼は立ち止まって私の返事を待っている。
                         私は少し躊躇ったけれど私が言うまでは彼は納得しないだろうと思って
                        観念して話し始めた。

                        「あ・・ショーウィンドーにね。クローバーの指輪があって可愛いなって
                       思ったの・・・」

                        「指輪か・・・女性だからそういったモノに興味があるだろうが、楽器を扱う
                       者としてはあまり勧められないな」
                        「・・・・・・うん、私もアクセサリーなんて結婚式とかに招待されたときじゃないと
                       つけないけどね・・・・」

                         その言葉は予想していた。
                         予想はしていたけど、あまりに予想通りだったからちょっとだけショックを
                        受けた。

                        「でも、俺もいつかは・・と思うときがある・・」
                        「え・・・?」

                         彼の言葉の意味がわからずに私は彼を見上げた。
                         月森くんは真剣な眼差しで私を見つめると、手を引いて近くの公園に
                        連れて来た。

                         「月森くん・・ここは・・?」

                          目の前に広がるのはシロツメグサとその白い花。
                          月森くんはその中から一本だけ花と葉を摘み取ると私の前にやってきた。

                         「手を出してくれ・・・」
                         「手・・?」

                          月森くんは私の左手を掴むと薬指に持っていた花と葉を巻きつけた。

                         「今はまだ・・二人とも親の保護が必要だけれど・・いつか一人前に
                        なったら本物を贈りたいと思っている」
                         「だから・・・今はこれで我慢してくれ」

                          そう言って月森くんは真赤になって私から恥ずかしそうに視線を
                         外した。
                          私は驚いて掴まれたままの左手を眺めた。

                          薬指にあるのは白い花と四葉のクローバー。
                          それはまるで指輪のようだった。

                         「あり・・がと・・嬉しい」

                          私の目には自然と大粒の涙が溢れ出した。

                     
                          四葉のクローバーの一枚一枚の意味は


                         Fame  (名声)

                         wealth  (富)

                         Faithful Lover  (満ち足りた愛)

                         Glorius health  (すばらしい健康)

                      
                         そして四枚揃った意味は True Love 〜真実の愛〜

                         私はこんなにも早く本当の愛を知る事が出来た幸せものだ。
                       
                        「早く、大人になりたいね・・」

                         右手で涙を拭いながら彼に言うと、月森くんは口元に優しい笑みを
                       浮かべて言った。

                        「ああ、でも焦る必要はない・・」
                        「俺はこの白い花に誓ったから・・・」

                        「誓った・・?」

                        「母に聞いたのだが、シロツメグサの花言葉は”約束”だそうだからな」
                        
                        「だから君との幸せな未来を君とこの花に誓おう・・」


                    

                          短時間で書いたらこんな話になりました。
                          前から暖めてたのに・・・。
                          シロツメグサは調べたら本によって花言葉が違いました。