恋の加速度



                     春も目の前だというのに大雪が降った翌日のこと。
                     木々はまるで桜が咲いたように白く輝き、澄んだ空気は
                    冷たく頬を撫でる。
                     総司とセイはまるで子犬のように喜び、じゃれあいながら外へ
                    と繰り出した。
                     二人は雪ウサギを作ったり雪合戦をしたりと楽しんでいたが、
                     ふっと、何を思ったのかセイは総司に思いもよらないことを
                    質問してきた。


                     「沖田先生って私の事どれくらい好きですか?」

                     「はっ!?」

                      最初は質問された内容が理解できずに呆然としていた総司だったが、
                      ハッと我に返ると見る見るうちに顔を真赤にさせた。

                     (なっ、なんで急にそんなこと聞くんでしょう?)

                      総司は早鐘を打ち始めた胸を苦しそうにぎゅっと手で押さえた。

                     (私の気持ちがバレバレなんでしょうか!?)

                      周りから見れば勿論バレバレなのだが、セイはその上をいく
                     野暮天なので今も気がついていない。
                      だからうまく誤魔化せているのだと総司は日々思い込んでいた。

                     「ねぇ先生、どれくらいですか?」

                      セイはもう一度繰り返し、上目遣いで総司を見つめた。
                     (そのアングルは強烈です!!)

                      胸がドキュン(by斉藤)と高鳴り、あまりの可愛さに耐えられなくなって
                     ぎゅっと目を瞑り顔を背けた。
                      それを見たセイはショックを受けたような表情になり、大きな瞳に大粒の
                     涙を浮かべ始めた。

                     「私の事キライなんですか?」
                     「ち、ちがいますよ!!」

                      総司は慌てふためき、ぶんぶんと勢い良く両手を振って否定した。

                     「私の気持ちはとても言葉では言いあらわせられなくて・・・」
                     「どう表現して良いかわからないだけなんです!!」

                      これは本当のことだった。
                      どんどんと大きくなっていくこの気持ちをどう説明したら良いのか
                     わからない。
                    

                     (あぁ、私には土方さんの発句くらいの表現力しかないんだ・・・)

                       土方が聞いたら暴れだしそうな言葉を胸の中で呟いてみる。
                       
                     (何か・・・何か良い方法はないか・・・)
                       考え込んで俯くと、自分の足跡を無数に残す白い雪が目に入った。
    
                      (これだ!!)
                        総司は座り込んで雪をかき集め、小さな雪玉を作った。

                       「沖田先生?」
                         セイは不思議そうに背後からそれを見守る。

                       「神谷さん、見ていてくださいね」
                          総司はセイの手を引いて緩やかな坂道まで連れてくると
                         先程作った小さな雪玉を下に向かって転がした。

                          雪玉は坂下に向かってコロコロと転がり、大きくなりながら
                         どんどん速度を増していく。

                       「私の気持ちもあの雪玉と一緒です」
                       「あなたのことを知るたびに恋心はどんどん大きくなり、速さを
                      増していくんです」
                       
                       「沖田先生・・・////」
                          セイはその言葉を聞き、熱っぽい瞳で総司を見つめると
                         そのまま抱きついてきた 。
                          総司は心の中でVサインをする。
                 
                        (決まった!決まりまくりです!!)

                          ふと、セイは何気なく転がした雪玉に目をやった。
                          セイ達が立っている坂道は緩やかだが、意外と長い道
                         だったりする。
                          雪玉はみるみるうちに大きくなり、巨大な物となっていた。

                          総司もそれを見ていっきに顔が引きつる。
                          そこへちょうど巡察中の斉藤率いる3番隊が坂下を歩いている
                         のが見えた。

                        「あ!兄上!?」
                        「斉藤さん!?」

                         (何てお約束な人なんですか斉藤さん!)
                         (運が悪すぎます!!)

                        「斉藤さんあぶなー・・・うわ!」
                          慌てて前に駆け出し、呼びかけた総司は足がもつれて転び、
                         ゴロゴロと自分が坂道を転がり始めた。

                        「沖田先生!?」
                          驚いたセイが悲鳴を上げた。

                        「ん?」
                          セイの声に気づいた斉藤が坂の上を見上げた。
                        「何だアレは!?」
                          見れば巨大な雪玉が自分達めがけて転がってくる。

                        『わ〜!!』        
                          三番隊士達は慌てて四方に逃げたが、斉藤だけは
                        正面から雪玉を迎えうち、一瞬にして刀を抜いて雪玉を
                        真っ二つに割って見せた。

                          隊士達の間から「おおー」という声が上がる。

                        「お見事です斉藤先生!!」
                        「さすが組長です」

                         隠れて見守っていた隊士達が拍手をしながら出てこようとした時、
                        もう一つ転がってきた雪玉をみて再び唖然となった。

                         これも巨大な雪玉なのだが、なんと天辺で目を回している
                        総司が見える。

                        「な!沖田さん!!」
                         さすがの斉藤もその雪玉を斬るわけにはいかなかった。
                         かといって逃げるには遅すぎる。

                        「うわ〜!!」
                         総司の雪玉は斉藤にストライクし、そのまま総司と斉藤を
                        巻き込んでどこかへと転がっていった。

                        「く、組長・・・・・・」
                        「どっか行っちゃったけど・・どうしよう巡察・・・」
                        「とりあえず伍長が指揮すれば良いんじゃないですか?」

                         残されて呆然とする3番隊士にセイは何事もなかったように
                        アドバイスした。

                        「そっか・・・」
                        「そうだな、さすが神谷だ」

                         その後の3番隊の巡察は伍長の指揮の下滞りなく終わったが、
                        総司と斉藤はその日帰ってくることはなかった。

                         

                 
                           遅くなってすみません!
                           色々考えてたんですが結局交換日記みたいな
                          ノリになってしまいました。
                           キレるというか巻き込まれるになっちゃって申し訳ないです。
                           京都にこんな場所は絶対無いと思いますが、
                          まぁ想像で(笑)