ろめき、壁を背にしゃがみこんだ。
『フェアリ。これは、なんだ。どういうことなんだ。』
俺の問いに、フェアリは、一つのカプセルの前に立ち止まった。
そして、何かのスイッチを入れた。
声が、聞こえてきた。
『君が…チューマー…か。
改めて名乗ろう…。私が、ヴァーテブラ=トランスバースだ。
見ての通り…、今の私は…脳だけなのだ。』
あまりの事に、俺は二の句が告げなかった。
『クレストの人形式強化人間の…実態が、これだ。
人間の脳から直接、エーテルを介した信号を人形へ送り、まるで本人の肉体であるかのように、動かすのだ。
そして…脳には、思うままに暗示をかけることができるのだ。
私は…、ケイの罠にかかり、捕らえられ、このような姿にされてしまった。
そして、暗示をかけられ、君たちの仲間を、手にかけた。コロンも私の目には止まらなかった。
しかし、コロンの声に、私の暗示は解けた。
そして、ここへの侵入に成功したフェアリに、他の者の暗示も解かせた。
見てくれ…。周りのみんなを。みんな…脳、だけ、なんだ。』
立ち上がったコロンは、兄に覆いかぶさった。
『兄さん…!兄さん…!!』
後が続かない。コロンの涙が、兄の脳を包んだカプセルを濡らしていく。
『コロン…。悪い兄ですまなかった。
あのクリスマスの日…、お前を置いていかなければ、こんなことには…。
辛い思いをさせてしまったな。
私も、お前を抱きしめてやりたいが、あいにくこの姿だ。
元に戻ることなど、できない。レイピアの力をもってしてもだ。』
コロンは涙も流れるままに、兄の言葉を聞く。
『ここのみんなは、ただ、戦わせる為だけに、ここにつれてこられた。
戦うことしかできない体にされてしまった。
美しいものを、美しいと感じることも
悲しいことを、悲しいと感じることも
嬉しいことを、嬉しいと感じることも
食事を楽しむことも
音楽を聴くことも
本を読むことも
花に水をやることも
公園を散歩することも
スポーツで汗を流すことも
大切な人を抱きしめることも
愛することも
…できないんだ。
戦うこと以外には、何一つ、できないんだ。
でも、人間は戦う為だけに生まれてくるんじゃない。もっともっと、いろんな、いろんなことができるんだ。
コロン。
君は、もう立派な大人だ。
自分がやりたいことをやるがいい。
君の可能性は無限なんだ。
私の代わりに、ここのみんなの為にも…、精一杯、生きてくれ。』
何処かで、カチリ、と音がした。
そして、全てのカプセルの培養液が、抜けていく。
さー、と流れる水音。
『兄さん!?』
コロンの悲痛な叫び。
『みんなも…、同じ意見だ…。私たちは…、やっと、天に召される…。
最後に、こんな兄に会いにきてくれて、ありがとう。
君に会えて… 本当に…
よかった 』
ふっつりと、言葉は途切れ、
フェアリが、カタンと倒れた。
もう、動かない。
あたりを静寂が包んだ。
彼らは、自らの命を終わらせたのだ。
自らの希望を、生き残った者に託して。」
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