「”フェアリ”は驚くほど軽く、構造も単純で、これだけで人間のように動けるとはとても思えなかった。
『おかしいですわね。これ、本当にMTを操縦してたのかしら?』
リンダが不審に思うのも、もっともだ。
人間と見間違うようなロボットの開発に成功したという話も聞いたことがないし、そんなことは夢物語だ。
『このビルに登ってみれば、何かわかるんじゃない?レイピアって人が、あたしたちを待ってるんでしょう。何か知ってるかもよ?』
コロンの提案に全員が頷いたものの、フォーラが口を挟んだ。
『賛成ですが、ACを無人のまま残していくのは危険です。私がACに残って見張りをします。』
フォーラはAC”アディーナ-2”のコクピットに戻り、通常モードで起動した。フォーラは白兵戦用の訓練を受けていなかったため、生身で突入するには不安を否めず、妥当な判断だったと言えるだろう。また、フォーラのACの腕はもはや言うまでもないため、安心して任せられると誰もが思った。
明かりの灯っている一室はビルの2階中央にあり、ビルの入り口は東西に一つずつあった。
『コロンとチューマーは東口から。リンダと私は西口から侵入する。それぞれ階上を目指すが、何があるかわからない。危険と判断されれば速やかに撤退しろ。いいか。』
ジャックの指示に基づき、俺たちは二手に分かれた。俺とコロンが東口、ジャックとリンダが西口から侵入。フォーラはACで残りだ。”フェアリ”はジャックの肩に担がれた。
『まさか、あんたと組む時が来るとは思わなかったわ。よろしく。』
コロンが、俺に白い歯を見せて笑う。たまにはこういうのも悪くない。
『では、健闘を祈る。目的地で会おう。』
ジャックの号令で、俺たちは左右に散った。
『またね、フォーラちゃん。』
『コロン先輩、危なかったらすぐ戻ってくださいね。』
コロンとフォーラは、互いに大きく手を振った。
暗闇に浮かび上がる、廃ビル。その東口。
目的の一室は2階中央。それほど大きなビルではない為、目的地への道のりもたかが知れているが、AC数機で囲むほどの守りだ。ビル内にも敵がいる可能性は大きい。コロンと俺はそれぞれ短銃を抜き、玄関の壁に張り付き、息を合わせて同時に飛び込んだ。
タタンッ、という銃声が響き、俺たちの後ろの壁に銃弾が弾いた。数人の人影が、壁越しに垣間見える。敵だ。西口でも始まったらしい。リンダの甲高い声が銃声に混じって聞こえてくる。
『チューマー、大丈夫?』
『心配、無用だ。』
俺はマントの裏に提げていた手榴弾を投げようとしたが、コロンがそれを制止した。
『待って。殺しちゃ、だめ。あたしが先に行くから。』
言うが早いか、コロンは跳躍した。
強化人間である俺が言うのもおかしな話だが、コロンの運動神経は常人離れしていた。天井近くまでジャンプし、障害物を飛び越え、壁を蹴り、敵のど真ん中に飛び込んだ。一人を空中からの飛び膝蹴りで吹き飛ばすや、ライフルの台尻を打ち下ろす二人目の足首に飛びついて引きずり倒し、ひるんだ三人目の顔面に右拳を叩き込んだ。
あの女に武器は不要だった。その肉体こそが凶器だった。
ライフルを構えなおした四人目はみぞおちに体当たりを受けてひっくり返り、五人目は前転宙返りからの踵落しで地に這い、六人目は低姿勢からの鋭い回し蹴りで宙を舞った。
だが、コロンも猛攻もここまでだった。先に倒したはずの数人が次々と立ち上がり、コロンに向けて発砲したのだ。
『え、え!?なんで!』
起こりえない事態に、コロンが恐怖の叫びを上げた。躊躇している場合
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