人形

動きは、その更に上を行っていた。敵ACが振り向きざまに放ったライフル弾を紙一重でかわし、ブレードを避けさせたところに、右手のエネルギーライフルを至近距離から撃ち込んだ。ジェネレータを破壊された敵ACはその場に崩れ落ち、沈黙した。
息つく間もなく、”アディーナ-2”は次のターゲットに向かっていた。廃ビルの前で防御体制をとる敵ACの眼前をすり抜け、構えたシールドをそのつま先で叩き落とし、コアの後部に強烈な右肘鉄を叩き込んだ。目にも止まらぬ早業とはこの事だ。”アディーナ-2”は、前のめりに倒れこんだ敵ACの背中に銃口を押し付け、引き金を引いた。強い。普段物静かなフォーラだが、ACを相手にすると、一切の容赦はなかった。
しかし、俺たちは油断していた。背後から接近した3機目の敵ACに気づかなかったのだ。敵ACの放った一発の銃弾により、少女を載せたMTは爆散した。

”おのれッ!”

俺とジャックの集中攻撃により、そのACは瞬く間に鉄屑と化した。

”援護、よろしく!”

コロンのAC”アディーナ-1”は跪き、破壊された少女のMTに覆いかぶさった。コクピットから飛び出したコロンが、MTのコクピットに救助に向かうのが見える。
しかし、その頭上に4機目の敵ACが降下した。ブレードを振りかぶり、一直線に”アディーナ-1”を襲う。だが、俺が銃を構えるよりも早く、敵ACは横合いから撃ち込まれた一発のグレネード弾によって吹き飛んだ。

”…!?”

ビル影に、AC”ジャンネッタ”がいた。肩のグレネードキャノンから、細く白煙が上がっている。一体いつの間についてきたのだろうか。

”リンダ、留守番はどうした!”

ジャックの怒声が飛ぶ。

”だってー!”

だってもヘチマもないのだが、ついてきてしまったものは仕方ない。
敵の増援がないのを確認して、俺たちはACを降り、目的の廃ビルの前に集合した。コロンは、その両手に少女を抱えている。
その、紫の髪の少女…フェアリは、ピクリとも動かなかった。

『死んだのか。』

ジャックは少女の手に触れたが、ぎょっとしたように、その手を引っ込めた。

『…うん。この子、お人形さんだったの。』

コロンの手の中の少女は、まるでマネキンの人形だった。遠目には人間と見分けがつかなかったが、近くで見ると、人間でないことがわかる。

”フェアリ”は、生きた人間ではなかったのだ。」
10/02/28 08:32更新 / YY

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