!』
『…ごめん。』
『言い過ぎましたわ。』
コロンとリンダは喧嘩をやめ、場はまた静寂に包まれた。ジャックは外したサングラスをかけなおし、腕組みのまま俯いた。
テントは闇に閉ざされ、夜は更けていく。
コロンとフォーラが、かすかな寝息を立てはじめた。
ときどき聞こえる嗚咽は、リンダだろうか。
ジャックは腕組みで座ったままだ。寝ているのか、あるいは瞑想しているのか。
俺は目を閉じた。
堕ちる戦闘機、沈みゆく艦、四散するAC、廃墟と化した市街地…。
一日の出来事が、瞼の裏に浮かんでは消える。
あまりの出来事に自分の記憶を疑いたくなるが、それが現実だった。
少しでも体を休める必要があった。しかし、俺は、まだ何か起こるような気がして眠れなかった。
嫌な感じがする。
まだ、何か…。
誰かがやってくる気配がして、テントの入り口が、す、と開いた。
月明かりに、誰かが、そこに立っているのが見える。
少女のようだ。
長い、薄紫の髪に、金の瞳。痩せて細長い手足。
それを見た俺は思わず息を飲んだ。
見覚えがあったからだ。しかし、俺の記憶の人物とは少し違うような気もした。
『…コロン=トランスバースさん、…ここに、いる?』
その少女が、そう呟いた。コロンのことを知っているのか。
『いる。起こしたほうがいいか?』
俺は動揺を隠しつつ、小声で答えた。コロンはよく眠っている。
『…寝ているの?起こさなくていい。これをあげる。』
その少女は、小さな紙切れを俺に手渡した。
その小さな手には血が通っていないように見えた。俺は全身総毛立つのがわかった。
『私は、フェアリ=メイ…。
生きようとして生きられなかった子…。死のうとして死ねなかった子…。永遠の少女…。』
そいつは囁くと、音もたてずに出て行った。
半開きになったテントの入り口が、風にゆらいでいる。
『誰だ、今のは。』
ジャックの声で、俺はわれに帰った。
起きているのなら少しは反応すればいいのに、気の利かない奴だ。
『…知らん。これを渡された。見てみるか?』
俺の返事にジャックは立ち上がり、隣でライターに火をつけた。
薄明かりの下、紙片に文字が浮かび上がる。
そこに書いてあったのは、こうだった。
”レイヴンたちに、最後の依頼です。
明日の夜明け前、ミクリッツダムの湖底で待っています。人が、人らしく生きるために。
レイピア=ドルナー”
俺とジャックは黙って顔を見合わせた。」
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