死の街、ミクリッツ

「ミクリッツシティー。
クレスト管轄下にある、中規模の市街都市だ。クレスト本社などのある中枢からは遠く離れ、へんぴな地方都市といったところだ。街の歴史は比較的浅く、都市開発が始まる前はクレストの軍事格納庫が並んでいたようだが、俺も詳しくは知らん。とにかく、俺たちがそこへたどり着いたときは、そこはまさに地獄だった…。
見渡す限りの瓦礫の山。ところどころに散らばっているMTの残骸は、ミラージュの進入部隊のものだろう。市街は徹底的に破壊され、かつての面影をしのばせるものはなにもなかった。炎上する民家、へし折れた歩道橋、脱線した鉄道、吹っ飛んだガススタンド、路上に点々と横たわる死体。俺たちと”奴ら”の他に、動くものはなかった。”奴ら”の群れは俺たちの頭上を越え、街の外れの山岳地帯へ向かっていた。まだ、そこには”破壊できるもの”が残っているということだろう。瓦礫を踏み越え、俺たちもその山岳地帯へ向かった。

ミクリッツシティーの山岳地帯は、隣接するセラシティーとの境界に当たる。美しい景観と夜景で名を知られたミクリッツダム公園や、眼下を流れるネラトン川など、観光スポットとして有名な場所だ。…いや、貴様もよく行った事があるだろうから、細かい説明は不要か。…”奴ら”の向かった先は、ミクリッツダムだった。ミクリッツダムの周囲に広がる公園が、市民の避難場所となっていたのだった。
公園の周囲にはバリケードが積み上げられ、生き残りのシティーガードが必死の防戦を続けていた。その中に、2機のACの姿もあった。青と赤の、同型の軽量二脚ACだ。…貴様にはもうわかったろう。そう、”アディーナ”1号機と2号機だ。パイロットのコロンとフォーラが、ミクリッツを住所としているのは俺もよく知っていた。作戦場所を聞いた時点で、俺はこの2機との接触は避けられないと踏んでいたが、果たしてその通りとなったわけだ。

”クレストAC…!?来るのが遅い!早く手伝って!”

挨拶も抜きに通信が飛び込んでくる。AC”アディーナ-1”のコロンだ。

”こちら、アディーナ-2、フォーラ=ウィンスロー。敵の規模は不明です。援護を!”

フォーラの声も張り詰め、ギリギリの防戦を続けていたことが窺い知れる。

”クレストACドゥルカマーラ、ジャック=ファイザーだ。遅くなってすまない。これより、共同で敵勢力を排除する。…行くぞ、リンダ、チューマー!”

両手に2丁のバズーカを構えたAC”ドゥルカマーラ”がジャンプし、地響きを立ててバリケードの前に降り立った。AC”ジャンネッタ”もそれに続く。俺は、背面を守るべく公園を飛び越え、ダムの湖岸にACを着地させた。”奴ら”の大群は、黒雲のように俺たちの頭上に押し寄せていた。」
10/02/28 08:30更新 / YY

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