満身創痍



”姉御は…俺の…”

雑音に混じって、アルサーの最期の声が聞こえたようだったが、雑音にかき消された。

”アルサーッ!”

リンダの悲痛な叫びが響き、大音響と共に、AC”ヴィオラ”は爆発四散した。その爆煙は天をつき、爆風は艦を揺るがした。
人一倍リンダのことを思っていたアルサーだ。奴らしい最期と言えなくもない。だが、AC一機を失った損失は致命的だった。もはやこれまでか、と俺も覚悟を決めた。

しかし、艦橋の被弾後、統制を失っていた砲塔群が、突然息を吹き返したかのように稼動を始めたのだ。狂いのない連携で再び”奴ら”を撃退してゆく。何が起こったのか、俺は咄嗟にはわからなかった。
放送が入った。

”諸君。遅くなってすまない。艦隊指令のノルバスクだ。これより、名誉の戦死を遂げたロドム=ザンタック中佐に代わり、私が本艦の指揮を執る。ジャック=ファイザーの隊も帰艦した。敵の数は多いが、無限はあり得ず、個々は弱い。迷うな。我々は、必ず勝つ。”

艦深部にいたノルバスクが、消火を終えた艦橋に上がったのだ。
見れば、傷ついてはいるものの、MT数機を従えたAC”ドゥルカマーラ”が右舷に到着している。
ノルバスクの登場とジャックの帰艦で、兵たちの士気は一気に高揚した。”奴ら”の数も心なしか少なくなってきたようだ。生き残った砲塔群は高々と砲身を上げ、俺も熱で火を噴き始めたマシンガンを予備に取り替え、再び”奴ら”に銃口を向けた。
しかし、甘い話は無かった。誰も予想しない、最悪の事態が”ジュピター”を襲ったのだ。」
10/02/28 08:29更新 / YY

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まろやか投稿小説 Ver1.50