緋眼の妖精

季節は晩秋。
山は紅葉から、冬支度に入りつつあります。
工房の応接室の外にもたくさんの落ち葉が積もり、風にかさかさと鳴っています。
その応接室のテーブルの前に、コロンさんは一人で座っていました。
しん、とした室内。
フォーラさんがAC”アディーナ2号機”に乗って、何処かへ行ってしまってから、もう一ヶ月が経ちます。
あれから、フォーラさんからは何の連絡もありません。コロンさんも探しましたが、何の情報も得られませんでした。
今日は11月3日。フォーラさんの誕生日です。

「フォーラちゃん…。今日は、あなたの誕生日よ。一体、どこへ行ってしまったの?元気でいるの?今、一体何をしているの?
…あたしを、一人にしないで…。もう、怒ってないから。帰ってきてよ…。」

応接室の隅には、誰も見ていないテレビが番組を流し続けています。アリーナの実況中継のようです。

『はい。今日はサブアリーナの会場からです。
アリーナの出場権を得るためには避けて通れないこのサブアリーナですが、普段は放映していませんね。
でも、今日は決勝戦です。アリーナの次の新人は誰なのか?今日は特別に中継でお送りします。』

コロンさんは、ぼんやりとテレビ画面に目を移しました。

『決勝戦!さぁ、対戦するのはこの二人です!
狂える剣士、ギャル=ブラッダー、AC名”ムサシ”!そして、
緋眼の妖精、フォーラ=ウィンスロー、AC名”アディーナ2号機”です!』

コロンさんの目が点になりました。
間違いありません。フォーラさんです。フォーラさんが、サブアリーナの決勝戦に出ているのです。
コロンさんは、テレビの前に駆け寄りました。

『ギャル=ブラッダーは、これまで全ての相手を両手のブレードで仕留めてきた、剣術の達人です。
対するフォーラ=ウィンスローは、サブアリーナに出場以来、一度も負けたことがないという、脅威の記録の持ち主です。
さぁ、アリーナの出場権を手にするのはどっちか。今、戦いの火蓋が切って落とされます!』

赤と黒で塗装された”アディーナ2号機”が、闘技場に現れました。会場は大いに沸いています。大変な人気です。

電光掲示板の合図と共に、戦いは始まりました。
オーバード・ブーストで一気に間合いを詰めた”ムサシ”が、”アディーナ2号機”に斬りかかります。しかし、ひらりと舞い上がった”アディーナ2号機”は、弧を描いて”ムサシ”の背後に着地、間髪入れずに右手のプラズマライフルをその無防備な背中に叩き込みました。
青白い爆光と共に吹き飛ぶ”ムサシ”。
同時に”アディーナ2号機”はオーバード・ブーストを点火し、急加速により、吹き飛ぶ”ムサシ”に追いつき、その両膝で”ムサシ”を地面に叩き付けました。
ガキン、と鈍い音。
そして、”アディーナ2号機”は左手のブレードを、”ムサシ”のコクピットにピタリと突きつけました。
勝負ありです。あまりの早さに、会場は静まり返っています。

コロンさんもあっけに取られて声も出ません。

程なく画面が切り替わり、優勝者インタビューが始まりました。
フォーラさんが、恥ずかしそうに画面に映っています。

『サブアリーナ優勝、おめでとうございます。これでアリーナの出場権を獲得されたわけですが、感想はいかがですか?』

『はい。嬉しいです。』

『異例のスピードでアリーナの出場権を獲得されたわけですが、何か特別な訓練でも?』

『はい。クレスト社のアルピニー准尉が、毎晩稽古をつけて下さいました。』

『アルピニー准尉といいますと、”クレストの黒い稲妻”!?それはまた、凄い人に訓練をう
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まろやか投稿小説 Ver1.50