ルピニー准尉は、フォーラさんに稽古をつけていたのです。
あれだけの攻撃を受けながら、”アディーナ2号機”には掠り傷の一つもついていませんでした。アルピニー准尉は、全ての狙いを紙一重で外していたのです。
『わかりました、准尉。続きをお願い致します。』
”アディーナ2号機”はスックと立ち上がりました。
そのカメラアイが、金色に輝きます。
『よく言いましたわね。さぁ、逃げるばかりでは、チューマーどころか、誰にも勝てませんわ!今度は、私を倒すつもりいらっしゃい!』
『はい、准尉!』
”アディーナ2号機”は、覚えたばかりの”オーバード・ブースト”で急加速し、”ジャンネッタ”に向かっていきました。
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町外れの丘にある、小さな教会。
簡素な祭壇があり、チューマーはその前にうずくまっていました。
コロンさんが、小窓から中の様子を覗いています。
チューマーは、コロンさんが覗いていることなど、全く気付いていないようです。
ふと、コロンさんの耳に、チューマーの呻くような声が聞こえてきました。
「…ロメア…。
俺は、今日も人を殺してしまった…。
止まらない…止められない…。後生だ。誰か俺を、止めてくれ…!
あの時から、全てが狂ってしまったのだ…。俺は、もう人間には戻れない。誰か、助けてくれ…!」
コロンさんは、息を殺してそれを見守ります。
その時、ぱたんとドアが閉まる音がして、誰かが入ってきました。
どこかで見たことがあります。
…あの男は、そうです。テロリストのノデュール=べナインです。
「チューマー。お前、またここに来ていたのか。」
「…ノデュールか。ふん。貴様こそ、なんの用だ。」
意外な人物の登場に、コロンさんは声を抑えるのに必死でした。
「ハッ。チューマー。お前に面白い話を持ってきたのさ。お前、狙われているぜ。」
「…俺を狙うやつなど、いくらでもいる。この前も、緋色の目をした女に銃を向けられた…。」
「おや、そうかい。俺が言いたかったのは、その女のことさ。諸事情あって、お前の居所を教えたのは、この俺だがな。
チューマー。お前、恨まれてるぜ。いつまでこんなことを続ける気だ。」
「…誰かが俺を殺す時までだ。俺はそれを待っている。」
「…そうか。あの時、あんなことが起こらなければな。
お前の愛していたロメアがACに殺されて、お前は復讐鬼になった。
MT乗りだったお前は、レイヴンになり、強化手術まで受けて、遂に仇を討った。だが…。」
「…俺には何も残らなかった。そうさ。いつの間にか、俺は人を殺すことしか考えられない男になっていたのさ…。
笑ってくれよ、ノデュール。復讐なんかのために、人間であることすら捨てた、哀れな男の末路を。
さらに、俺は貴様の仲間にまで手をかけた。」
「恨んじゃいないさ…。
チューマー、ここでさようならだ。俺はテロリストとして指名手配されている。
…最後に忠告だ。お前が依頼を受けたという噂の、クレストの新型兵器のテスト。あれは危険だ。気をつけろ。」
「…ふん。忠告ありがとう。せいぜい生き延びろ、ノデュール。」
ぱたん、と音がして、ノデュールは出て行きました。
それを見届けて、コロンさんはそっと教会を後にしました。
東の空が白んでいます。
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