10.『逃走戦』

 それを見た兵士の一人が叫ぶ。
 そのACの左手には、本来同じAC相手に使うバトルライフルが握られていた。
 刹那の轟音。壁を射抜き、爆発の炎と黒煙が空母の側面から噴き出す。
 そして、その中からソルジットが飛びだした。そのコクピットハッチを開いたまま、艦隊から離れ、進路を島へと向け、飛ぶ―
「島へ上陸したらすぐに管理棟エリアへと向かおう。このまま奴らを侵攻させるわけにはいかない」
 コクピットシートへと座り、機体を操るエリーゼへ、アルトセーレは言った。機体は海面スレスレをブースター全開で飛んだ。
「分かった。…でも、彼らはそうさせてはくれないみたいね」
 レーダーへと視線をやる。後方から4つの敵機。いずれもAC。自身が乗る機体ソルジット部隊だ。
「フレアの部隊か…ッ」
 グラリとアルトセーレはコクピット内でよろついた。とっさにエリーゼはその体を掴み、そして、気づく。
「あなた、撃たれたの!?」
 彼女のわき腹が赤く血で染まっていた。
「…気にするな。それよりも―」
 アルトセーレが“来るぞ”と言った刹那、近くで起こった爆発で機体を揺れる。
「チッ…。邪魔なのよ!」
 ブースターを吹かしたまま、ソルジットは反転、狙いをつけず右手のバトルライフルと左手のライフルの引き金を引いた。
 飛んでくる弾丸を4機は散開して避ける。その間に二人が乗るソルジットは機体の向きを元に戻し、加速した。
 当然4機も集合し、加速しながら彼女らのソルジットを追撃してくる。
「エリーゼ、後ろへ構うな…!もうすぐ島の領域だ。そこへ逃げ込めば、奴らはそれ以上追ってこないはずだ!」
 激しく火線飛ぶ中、アルトセーレは必至の形相で叫んだ。眼前に浅瀬が見え始め、砂浜もはっきりと見え始めた。もうすぐである。
 その顔色は先よりも酷くなっている。脇からの出血が止まらない。
『フフフッ…。逃がしはしない』
 通信機から聞き覚えのある冷たい声が聞こえる。
「上!?」
 刹那、上空に機影。それは落下しながら左腕を破壊的に外し、背に担いでいた異形の武器と合体した。
「エリーゼ避けろ!」
 何かを感じ取ったのか、アルトセーレがエリーゼにかぶさるようにして、操縦桿を奪い取った。
 機体の向きが刹那90度変わる。それと同時におぞましくけたたましい音を立て、真っ赤な巨大な刃が空から降り降りた。
 真紅に、紅蓮の炎を纏ったその刃が回避行動をとったはずのソルジットの左腕と左足を容赦なく抉り、削り取る―
「ああぁァァ…!!」
 駒ネズミのように、跳ね飛ばされたソルジットはバランスを崩し、海面へと落下した。
 大きく浅瀬の上を数回バウンドし、仰向けにソルジットは浜辺へと滑走し乗りあげた。
 朦朧とした意識を奮い立たせ、エリーゼは周囲を見る。機体は中破。各部からスパークが上がっている。そして、
「アルトセーレ…?アルトセーレ!?」
 彼女の姿がないことに気づいた。
「まさか…つい先、海へ!?―ッ」
 独白するエリーゼの目の前に、先の攻撃者が姿を現す。それは左腕をなくし、右手を異形の刃に変形させたフォールン・ヴァルキュリアであった。
「OW“グラインド・ブレード”を直前で避けるなんて…。良いセンスしているわ、あなた」
 カゲロウ上がるその右腕の異形の剣先を沈黙したソルジットへと向ける。
「でも、惜しかったわね。アルトセーレは、もう駄目でしょう。コクピットから良い勢いで放り出されたのを見たもの…。あの速度で水面へ落下して、生きている人間はいないわ」
 フレアの言葉を聞いて、エリーゼは怨めしくフォールン・ヴァルキュリア
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まろやか投稿小説 Ver1.50