10.『逃走戦』

食事を持って入った兵を襲っているではないか。
「な、何をしているか!?」
 慌てて自動ドアを開け、中へと踏み入る二人。
 だが、次の瞬間振り返り様に二人の拳を受け、それが罠だと気付く。
既に時遅し。追撃で腹に入った強烈な蹴りで二人の兵は気を失い、その場に倒れ込んだ。
「よし、このフロアを上がり、ドックへ行く。そこで待機中のACを奪う」
 気を失い倒れた兵から自動小銃を取り上げ、二人は独房から駆けだした。
「キサマら!?」
 すぐさま別の兵に出くわし、相手よりも先に発砲。
 それが口火となって、艦内に警報が轟き始める。
「やること、派手ね」
「あまり好きではないけどな」
 まるで長くコンビを組んでいるかのように息を合わせ、敵の障害を突破しながら、二人は通路を進んでいく。
「これは一体何事だ?!」
 ブリッジでフレアが兵士に激を飛ばした。
「例の客人が逃げ出したようです!どうやら艦内部に潜入していた仲間がいた模様。通路で銃撃戦を繰り広げながら、甲板へと向かっています!」
「ふむ。どうやらアルトセーレはどうしても、あの娘を自分の物にしたいようだな」
 兵からの報告を聞いてフレアの隣へスモークマンが現れた。いつも通り、葉巻を指に挟み、まるでこうなることが分かっていたかのように、薄ら笑みを浮かべている。
「所詮ACを奪った所で、この艦隊からは逃げられない。分かっているだろう、フレア?」
 訊ねたその眼が冷たく言っている。”逃がすな、殺せ”と。
「了解しました」
 フレアは短くそう答えると、ブリッジを飛び出した。
(…やれやれ。手のかかる娘め。だが、お前の運もここまでだ)
 フレアを見送ると、スモークマンは艦長に私も出ると告げ、その場を後にした。
 そして、ブリーフィングルームへと向かい、そこで待っていた兵士らに告げる。
 ”裏切り者を始末せよ”と―。

 格納庫へと辿りついた二人は、積み重ねてあった物資の物陰に身を伏せ、周囲を窺った。
 エリーゼが脱走したことで、周囲はかなり混乱している。慌しく人が駆け巡り、怒号が飛ぶ。
 皆必死で二人を探しているのだ。
 それ故、兵器であるACの警備は、非常に手薄になっていた。
「あれって…、貴方が乗っていた機体にそっくりね?」
 ズラリ並ぶACを覗き見て、エリーゼはアルトセーレに訊ねた。
「ソルジットは、この部隊から支給されたものだったからな。―行くなら今しかない」
 一瞬人気がなくなったことを確認して二人は物影から飛び出す。
 アルトセーレら二人の眼前に黄色と黒で塗り分けられたソルジットがコクピットを開き待機していた。
「あれに乗りこめ!」
 “居たぞ!整備ドッグだ!”
 アルトセーレの指示と兵士の怒号が聞こえたのは、ほぼ同時だった。
 二人がACの足元へと辿りつくと兵士達から銃撃が始まった。
「クソッ…」
 火線を感じ、小さく舌打ちして、アルトセーレは振り返ると同時に自動小銃を構え、撃ってきた兵士数人へ狙いを浸け引き金を引いた。
「リューク!」
 それに気づいた彼女は銃弾飛び交う中、アルトセーレの“仮の名”を叫んだ。整備用フれームの影に隠れたアルトセーレは敵兵の銃撃にそこから動けなくなっていた。その間にも次々と兵士達の数は増え、状況は時間と共に不利になっていく。
それを打開するには、目の前のACしかない。
 意を決し、エリーゼは眼前のACのコクピットへと飛び込んだ。
 コクピットハッチは開放したまま、機体を起動させる。
 “バキバキ”と金属をへし折るような音を立て、ソルジットタイプTFは目覚めた。
「逃げろぉ!」

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まろやか投稿小説 Ver1.50