10.『逃走戦』

は昨夜、長く搭乗していた機体を放棄した後、ベルセフォネらの組織に潜りこんでいた。
 元々潜入任務を主に活動していた”傭兵”であるから、組織に潜り込むなど朝飯前だ。だが、気づかれるのも時間の問題だ。
 なぜなら、この合同部隊を指揮するのは、この技術を教えたスモークマンであるからだ。
(確証はないが…)
 次への答えは出た。長居は不要だ。『エリーゼ・バーンズを連れ、船から脱出する』
「客人へ食事だ」
 エリーゼがいる独房の前。二人の見張りへそう告げて、鍵を開けさせると、アルトセーレは独房の中へと踏み入れた。
 スライド式の自動ドアが左右開き、そして、中に入ったのを確認して”ガシャン”と鍵が掛る。
 部屋はやや薄暗い。照明が一つ。窓が一つ。テーブルが一つに。ベッドが一つに、トイレが一つ。
 エリーゼはベッドに腰掛け、まるでアルトセーレが来るのを分かっていたかのように、彼女を待っていた。
「今日のお昼は何かしら?さすがに携行食ではいくら私でも腹もちがしないわ」
 口元に薄ら笑みを浮かべ、エリーゼはアルトセーレにそう告げた。
 まるでこの状況を楽しんでいるかのように。
「エリーゼ。ふざけているのか?自分がどういう状況に置かれているか、分かっているのか?」
 テーブルの上に食事の入ったトレーを置き、アルトセーレはやや語尾を荒げた。
「そうね。このままだとあのモルモットさんみたいになりそうだわ」
 刹那、彼女の胸倉がグイッと引き上げられる。
「―あの人は、あぁなる為に死んだわけじゃない」
 怒りを押し殺し、静かに強く、アルトセーレはエリーゼに言った。
「悪い冗談だったわ。…やはり、あの人こそ本当の”リューク・ライゼス”だったのね」
 ”そうだ”とアルトセーレは答え、エリーゼを掴んでいた手を放し、小窓がある壁際まで離れた。
「私はイグニスじゃないから詳しいことは分からないけど、アレを見たとき蘇った記憶の断片からそう推測できる。一体彼はあなたの何なの?」
「…ワタシにとって、あの人は大切な人だった。あの人がいたから、ワタシは”リューク・ライゼス”であることができた」
 ”なのに…”と小さく言いかけてアルトセーレは、俯き、そして、顔を上げた。
「短く話す。あの島には、お前が見た通り、人と機械の融合を可能にする技術が眠っている。だが、それを制御する管理者が亡き今、あの島は制御の元を離れ、暴走しつつある」
 まっすぐエリーゼを見つめ、アルトセーレは続ける。
「私がお前を連れ出した理由は、それをお前の”システムを制御化に置く”力でどうにかなるかもしれない、と思ったからだ」
「そうね。そういうこと、したかもしれないわ」
 アルトセーレの言葉を聞き、エリーゼの脳裏に、”陽だまりの街”での戦闘が思い出される。
「頼む。ワタシに力を貸してほしい。それがワタシとあの人との約束だから」
 目を閉じ、アルトセーレは俯く。そして、わずかな無言の後―
「…いいわ。そういうことなら」
 エリーゼは短くそう答えた。
「どうして私にそういう能力があるのか分からないけど、例のΔ”トリニティ”システムに関係ありそうなら、私がどうしてこうなったのか分かることにもつながる」
 そして、腰かけていたベッドから立ち上がる。
「すまない」
 短く礼を述べ、アルトセーレは先入った独房のドアを睨みつける。それはエリーゼも同じだった。

「ん…?」
「どうした?」
 独房を監視していた二人の青年兵は、中から聞こえる荒声に首をかしげ、のぞき窓から中を覗いた。
 そして、刹那彼は驚く。中に居る”客人”と呼ばれる囚人が先
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まろやか投稿小説 Ver1.50