10.『逃走戦』

つられ、同じく銃を下ろした。
 それをみたジュンとレオナも同様に銃を下ろす。
「イグニス、と言いましたね。貴方達が知っている情報、教えてくれますか?私達は、互いに持っている情報を共有し、それぞれ目の前にある問題を解決しなければならない」
 凛々しい顔立ちでノルンは、イグニスらへそう告げた。
「その問題っていうのは?」
「開拓の港の代表、ベルセフォネが自ら雇った傭兵部隊と貴方が探している人を連れ、ロスト・アイランドへ向かうようです」
 ノルンの話を聞いて、イグニスは“間違いない”と相槌を打った。
「リュークはそこに向かっています」
 代弁するようにノルンは皆へそう告げた。

 港を出るそれら一団は、まるでかつてどこかの海を支配した無敵艦隊のようだった。
 巡洋艦4隻に空母1隻。空母には、あの大型ヘリと黒く塗られたACが数機搭載されている。
 少数ながらも、総指揮を執る空母を守るべく巡洋艦(セントエルモ型)で構成されたその部隊は、ベルセフォネが雇った傭兵部隊“カンパニー”の一団だった。
 一方、空母はベルセフォネが自前で調達したものだ。戦闘機をかつて乗せていた甲板は、今やACを数機搭載する物へと変わっていた。
「順調な船出、というべきでしょうか?」
 スモークマンは、薄ら笑みを浮かべながら海を見つめるベルセフォネに話しかけた。
「そうね。貴方の働きには改めて感謝しているわ。何せ、キーマンであるエリーゼ・バーンズが手に入ったのだもの」
 視線を遠く微かに見えるロスト・アイランドへ向けたまま、ベルセフォネは答える。
「ロスト・アイランド。我々にはよく分かりませんが、あの島は高度な過去の技術が残されているようですね?」
「そうね。もしかしたら、この地域、いや、この世界の情勢をひっくりかえせるほどの価値があるものがあの島にはあるわ」
 そう語るベルセフォネの表情が険しくなる。
「あの男―、リューク・ライゼスはかつて単身あの島へ渡り、その最深部で“管理者”とあった。そして、あの男は私を裏切り、その者へと下った…」
 “長かったわ”と、ベルセフォネは告げ、踵を返すと、スモークマンもそれに連れ添うように歩き出した。
「改めて、申し訳ない。私が派遣したあの男が、まさか依頼主を裏切る、とは…」
 艦内を進みながらスモークマンは、ある部屋へと向かうベルセフォネに話しかける。その姿はさながらビジネスマンだ。
「しかし、ご安心を。今や、あの男は我々に役立つ物へと変わりました」
 やがて、二人の前に広い空間が現れた。
 それはまるで研究室のようだった。
 複数のフレキシブル配管。監視・制御装置。巨大な水槽。中に浮かぶは―、人と機械のキメラ。
「かつての傭兵が…、無慈悲なものね」
 その者は、かつてリューク・ライゼスと呼ばれていた男だった。
 だが、先の戦いで亡き者となりその骸は、埋葬されることも火葬されることもなく、彼らの実験台と成り果てていた。
「死人に人権など有りません。ましてや、この世界にそんなものなど存在しません」
 眠るキメラを見上げるスモークマンとベルセフォネ。
 その側で、一人の兵士がチラリと荷を運ぶ傍ら、それと二人の姿を横目で流し見て、足早にその部屋を出る。
(―なんてことを)
 その者は心に激しい怒りを滾らせた。
 その者―アルトセーレ・ブルーライネンは、足早に艦内の通路を抜け、途中食堂で荷を置き、変わりに艦内食が載せられたトレーを持ち、ある部屋へ向かう。
(エリーゼ・バーンズ。管理者と同じ、システムを管理下における能力があると思われる者…)
 アルトセーレ
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まろやか投稿小説 Ver1.50