た。
それにフレアは鼻で軽く笑って、
「どうやら噂通りの逸材らしい」
と、頭を上げた。
「エリーゼ・バーンズ。間違いなく、その直感。その冷静な精神。あの方が欲するわけだ…」
不敵な笑みを浮かべながら、フレアは拳銃を取り出しエリーゼへ向ける。
「一緒に来てもらおう。この状況だ、お前はどうすることもできん」
そう告げるフレアの顔から笑みは消えていた。
「分かったわ…」
それを見て、エリーゼはゆっくりと両腕を首の後ろへやった。
彼女の言うとおりだった。圧倒的な不利。どうやら敵地奥深く、自分は迂闊に踏み込んでしまったらしい。
「彼女を中央ビルへ連行しろ」
フレアの指示を受け、3人の兵士がエリーゼを取り囲み、隠し持っていた拳銃を取り上げ、その手に手錠をかける。
やがて、エリーゼが兵士らと共に倉庫の外へと連れ出されると、そこは彼らの部隊で一杯になっていた。
装甲車からのサーチライトが照らされる中、昼間見た、あのACの姿をエリーゼは見つけた―
「リュークはどうなったの?」
それを見上げ、エリーゼはフレアへ訊ねた。
「アルトセーレの事か?さぁな…、恐らくお前をずっと見ているさ」
それを聞いて、エリーゼが“どういうこと?”と聞き返そうとしたその時、突如近くの海辺から轟音と共に巨大な水柱が上がった。
「来たな、アルトセーレ!」
水柱の向こうから現れた者。それは、右腕を欠損しながらも勇ましくライフルを構えるソルジット・タイプTRだった。
そして、その刹那―
そのライフルが火を噴き、周囲の装甲車を射抜き、辺りを暗闇と紅蓮の炎に塗り替えた。
辺りが瞬く間に戦闘態勢へと変わる。フレアがエリーゼを拘束する兵士に“ビルへ連れて行け”と指示を出すと、
「やってくれる…」
不敵な笑みを浮かべながらすぐさま膝をつき、主を待つ愛機へ飛び乗った。
戦闘システムが瞬く間に起動し、モニターに敵機であるソルジットが映し出される。
ソルジットは、周囲の装甲車を一掃すると、今度は施設へとその銃口を向けた。
「だが―」
フォールン・ヴァルキュリアの紅きカメラアイが闇へ線を描く。
刹那一閃。空を割き、闇へ移るレーザーの一閃。
前後真っ二つに割れたライフルの銃身が空を舞う。
怯むソルジット。だが、すぐさま態勢を立て直し、近接で膝を蹴り出し、ブーストチャージを繰り出した。
「その程度ッ!!」
それをヒラリと風に舞う木の葉のように優雅に交わし、さらに一閃。
ソルジットの頭部がレーザーの刃で消し飛んだ。
「あっ…!!」
エリーゼの眼前で頭部を失ったソルジットが一際大きな火柱を起こす。
そして、まるで糸が切れた人形のように、仰向けでその場へ倒れた。
「リュークッ!!」
思わず声を荒げるエリーゼ。反射的に走り出そうとした時、彼女の肩を強く兵士が掴む。
「クッ…!はな―せ―?」
振り返り睨みつけた相手の顔を見て、エリーゼはおとなしくなった。
その兵士こそ、“リューク”ことアルトセーレだったからだ。
“静かに”
深くヘルメットを被った彼は、指を口の前に立ててジェスチャーでそう告げると、
「…ワタシに任せてほしい」
彼女を連行するように掴み、耳元でそうつぶやき、周りの兵士と共に歩き出した。
周囲の状況に身を任せるまま、二人の姿は中央ビルへと引き上げる部隊の車へと消えた―
9.『混迷の港』 終
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