語るスモークマンに、ベルセフォネは呆れにも“最も優れたね…”と小さく言葉を漏らした。
「貴方の本来の“優れた兵士”は、『あの男』じゃなかったの?」
その言葉にスモークマンのそれまで穏やかだった表情が一瞬固まった。
「それは、過去の話です。それに『あの男』はもうこの世にはいない」
そして、静かに落ち着いた様子で言葉を返し、
「今は、ベルセフォネ代表…。先、貴方も言いかけましたが、口論するために我々はここへ来たのではないのです。貴方の目的を達成するのが先決ですよ?その為に我々は貴方に雇われ、ここに来ている」
そう言葉を続けた。それを見て、ベルセフォネは“食えない男…“と薄ら笑みを浮かべ答え、鳴り始めた通信用の電話の受話器を取った。
そして、電話の内容を聞き終わると、彼女は静かに受話器を戻した。
「早速だけど、貴方達に動いてもらうわ。島のカギが向こうから飛び込んできたようだか…」
―夜。
ライトアップされた港町は、未だ晴れぬ島からの霧に曝されて幻想的に闇夜に映り出していた。
その一角。
ベルセフォネ代表が所有する港湾エリアの一片。
様々な物品がばかりが並ぶその場所に、エリーゼはいた。
夕方。何者かに追われ、逃げた先がこの場所だった。
そして、夜までその配置よく並んだ倉庫群の一つに入り込み、身を伏せていた。
警備の兵が見て回る中、見つからぬよう倉庫から倉庫へと移り、そして、とある場所へと辿り着く。
だが、そこはとんでもないところだった。
見たこともない機械兵器群。まるで金属や機械で生き物を形成したようなキメラ―というべきだろうか?
生理的に嫌悪感を掻き立てる造形をした化物が、ホルマリン浸けのように複数のカプセルの中で保管されていた。
「ここの主は、悪趣味の塊ね。こういうものを集めて、どうするつもりかしら…?」
それらを眺めながら、彼女は奥へと進む。まるで何かに吸い寄せられるように…
“私に関する何かがあるかもしれない”
不気味な空間の中、そんな希望にも似た観測が、彼女の歩を奥へと進めた。
「これは…」
そして、その予感通り目の前にもっとも巨大なカプセルが姿を現す―
目の前にかつて自身が入っていたモノと似たようなソレは、透明ケースとなり、中で眠る者を確認することができた…。
「人―なのか…?」
思わず息を呑む。
機械に呑まれた人というべきか、ソレは人間の男性へと機械が寄生したようなモノだった。
「ッ―」
俯き眠るその男の顔を凝視した瞬間、エリーゼの頭の中を、まるでカメラのフラッシュのように情報の波が次々と流れ出た。
『実験 金属の細胞化』
『魂の電子化にまつわる我々の考察』
『Δ”トリニティ”システムの解析―』
それらが、エリーゼ自身の記憶ではないことを、彼女は瞬時に判断できた。
どこでこんな記憶が頭の中に入ったのか…?
「まさか…、私も―」
一つの絶望が頭に過る。
「よくここまで入り込めたな、客人」
エリーゼを我へと引き戻すように、鋭い一言が倉庫内に響いた。
彼女が振り返り見ると、数名の兵士と共に士官着を着た女性がエリーゼを取り囲んでいた。
「初めまして、というべきか?昼は驚かせてすまなかったな。私は、フレア。我々はこの街の保安部だ。代表の命令で、貴方を迎えに来た」
そう告げ、深部下をお辞儀するその女性。
「そんな社交辞令な言葉で私が貴方達の方へと向かう、と?冗談じゃないわ…」
だが、エリーゼは彼女の正体を直ぐに見極めた。兵士の直感だろうか?間違いなく、“この人間は敵だ”と何かが自身に告げてい
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