9.『混迷の港』

スの先、そこはこの町の倉庫街であった。
 規律よく整えられた建物と道路。やや遠くに港のクレーンらしきものが見える。
“どこかに身を隠さなければ…”
 辺りを見回すエリーゼの視界に、無人稼働するコンテナ輸送車が見えた。
 意を決し、施設内に飛び出し、その無人機の荷台へと飛び乗る。
 エリーゼが乗っていることも分からぬまま、無人稼働する輸送車は予めプログラムされた場所へと荷を運んでいく。
「参ったわね…。隠れられたわ…」
 少し遅れてそこへと辿りついた二人組の一人は、フェンスを強く掴みしめ、唇をかみしめた。
「まったく…、尾行なんてベタなことをするからです…」
 青い髪の少女が息を切らしながら、呆れたようにそう告げる。
「ノルンだったら、正面切って『エリーゼ・バーンズさんですか?』って聞ける?!相手は想いってきり警戒感出しまくっているし…」
「ティオ!とにかくここに長居はよくありませんわ。ここは“代表”の専有地。相手のフィールドで目立つことは慎むべきです」
「分かったよ―」
 悔しさを滲ませながら、ティオは踵を返し、ノルンと共にその場から去った。

 夕刻。
 この街の“代表”―こと、ベルセフォネは電話の受話器を片手に、部下から上がってきた情報を受けていた。
 オレンジ色の光が差し込む職務室。オレンジの光に照らされて、白い肌と白銀の髪が朱色に染まる。社長室よろしく黒と白で統一され、オフィス然としたその部屋に置かれたディスクには、複数の資料と写真が広げられている。
「…そう。分かったわ。貴方達は通常勤務に戻りなさい。後は私の方でやります」
 優しい口調でそうつげてベルセフォネは、受話器を置いた。
「いやはや、まったくですな。貴方のビジネスパートーナーへ銃器を突きつけるとは…」
 彼女の手前、片手杖をついてモスグリーンのコートを羽織り、スーツ姿の男が立っていた。
“スモークマン”―そう周囲から彼は呼ばれている。彼はこの地域一帯を拠点に活動する軍事活動を生業とする“企業”の代表だった。
「貴方も貴方でしょう。あの島のカギを手に入れるためとはいえ、勝手な行動は慎んでもらいたいわ」
 先ほどとは打って変わってキリッと鋭い瞳でスモークマンを睨みつける。
「いや、申し訳ない…。私も“彼女”に非常に深い興味がありまして。ましてや、かつての私の教え子が共にいるとなると、余計にね…」
 皺の寄った口元が軽く笑みを浮かべ、胸元のポケットから葉巻を一本取り出し口へ咥えた。そして、“葉巻は大丈夫かね”と続けて訊ねた。
 ベルセフォネが“外で吸って”と言う前に、彼はコートのポケットからライターを取り出し、それへ火を浸ける。
「…紳士気取りの非常識な人ね」
「生憎、私は紳士ではないのでね。それに葉巻はいい。この世界では貴重品だが、私にとっては必需品だよ」
 “これが無ければ、仕事ができん”と、部屋の中心に置いてある黒革のソファーへ歩みながら、大きく葉巻の煙を吸い、煙を吐いた。
「フン。おかげで部屋にニオイが着きそうだわ。…それで?いい加減本題に入らせてもらいのだけど―」
「分かっておりますよ」
 ゆっくりとソファーに腰掛け、スモークマンは“入ってこい”と声をかけた。
 執務室のドアが開き、士官着に身を包んだ一人の女性が中に入る。凛々しい顔立ち。スラリと伸びたボディライン。後ろで、ピンで簡単にまとめられた髪。
 まるでドラマに出てきそうな女優のような人物だった。
「その方は?」
「フレア・アルトセーレ・ブルーライネン。我が企業において、私が育て上げた最も優れた兵士です」
 自慢げに
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まろやか投稿小説 Ver1.50