クソジジイ”の操り人形になったのね」
「黙れ。やはり、貴方の様な人に二丁拳銃(トゥーハンド)の名は勿体ないわ。もはや貴方は過去の存在。詰らぬ感情に揺さぶられ、兵士へと昇華できぬ欠陥品…」
フレアが語り終わるとほぼ同時に、突然漆黒の空より漆黒に彩られた異形の超大型ヘリが舞い降りた。
(―あれは!?)
ステルス迷彩がほどこされたソレは、まさしくアルトセーレにとってもっとも憎むべき相手が駆る機体だった。
カメラアイをズームにする。ドーム状になったコクピット・ガラスに浮かび上がる男の影。
軍服を纏い、紅きベレー棒を被り、杖を持った初老の男性。
「スモークマン!!」
刹那高ぶった感情をむき出しに、アルトセーレはその人物の名を叫んだ。
それに男は答えることなく、冷たく見下していた。
そして、静かに右手を上げ、刹那それを振り下ろす。
それが彼の攻撃の合図だった。
「クソッ…!」
ブースターで向きを変え、タイプTRはその場から駆けだした。
大型ヘリの、前面に装備された複数のオートキャノンのカバーが開き、砲身が向き出しになった。
『ターゲット・ロックオン、ファイヤ―』
まるで巣を攻撃されたスズメバチのように数えきれない量の弾丸が、一斉にタイプTRへ襲いかかる。
「それがお前の正式な挨拶か!?」
次々と襲いかかる弾丸の嵐。上空から容赦なく降り注ぐソレらを、ブースト機動とジャンプで、必死に回避する。巻き込まれれば、一瞬で機体がパイロットと共にハチの巣にされてしまう。
「―フレア、分かっているな?」
「はい、先生」
スモークマンの指示を受け、フレアは機を飛ばした。
まるで弾丸の海をサーフィンするように、フォールン・ヴァルキュリアはそれらを潜り抜け、タイプTRに向かっていく。
それを見たアルトセーレは一瞬、横目で街までの距離を見た。
気づけば、街と外界を隔てる領域ラインまであと少しになっていた。
これ以上近づけば、街から防衛部隊が出撃する。
「アルトセーレ!」
叫び声と同時に、機体がガトリングの弾で被弾し、細かく揺れる。
視線を前に戻した時、既に目前まで敵機は迫っていた。
回避が間に合わない−
刹那、一閃―
宙をソルジット・タイプTRの右腕部が舞った。
「腕の一本…」
大きく後方へハイ・ブースト。それと同時に空を舞う自ら腕に狙いをつけ、
「お前らにくれてやる!」
とっさにそれを撃ち抜いた。
それが、アルトセーレが今できる最大の反撃だった。
ハンガーユニットに固定されていたバトルライフルが大きく爆発し、それが追う者にとって目くらましになった。
「やめろ…」
爆発が終わった後、パイロットへスモークマンは指示を出した。
既にソルジット・タイプTRの姿は彼らの眼前にはなかった。
恐らく街の防衛ライン内へ逃げ込んだのだろう。これ以上追うのは、自分達にとって非常に都合が悪い。
『先生、どういたしますか?』
フレアが訊ねた。
それに、スモークマンは静かに胸元の葉巻とライターを取り出し、それに火を浸けると、それを口に咥えた。
そして、“ふぅ”と煙交じりに浅く息を吐くと、
「奴の目的は、“島へ行くこと”だ。奴が考えていることは私には分かっている。一旦引くぞ…」
そう指示を出し、両者はその場に硝煙と葉巻の香りを残し、姿を消した―
8.『放棄できぬ依頼』 終
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