8.『放棄できぬ依頼』

ンソールをいくつか弾いた。
「安心しろ。万が一の時は、俺が助けに行くからさ。ほら、急いでACに乗った乗った!」
 そして、席を立つと戸惑うイグニスの背を押して、後方のキャリア部へと共に向かった。
 そのキャリアでは、ジュンのAC−ソルジット・タイプTLとエリーゼが乗っていたAC−ファントム・タイプLが鎮座し、搭乗者が来るのを待っていた。
「むちゃくちゃだ…」
 不貞腐れた顔でイグニスはつぶやき、ファントムへと乗り込む。
「何か言ったか?」
 ファントムのコクピットシートへ収まったイグニスの頬をつねり上げられ、イグニスは堪らず“何でもありません”と謝った。
「俺がオペレートする。だから、安心して戦闘に行って来い」
 そう告げながらヘルメットを投げつけると、彼はコクピットハッチから離れた。
 そして、グッドラック!と言わんばかりに、ニカッと笑いながら親指を立て、ジュンはインカムを装着して鋼板から姿を消す。
「やるしかないな」
 自分へ言い聞かせるようにイグニスは小さく呟くと、手慣れた手付きで内部のコンソールを操作した。
 刹那、コクピットハッチが閉まり、カメラアイの奥に薄ら光が灯る。
 そして、ジェネレーターが起動する音と各種システムが立ち上がる音を立て、ACファントムは目覚めた。
 それとほぼ同時に上部の格納ハッチが解放。左右へ割れた天井の先、漆黒の曇り空が広がる。
 イグニスは足元のフットペダルを強く踏み込んだ。
 ブースターを吹いて、ファントムは空高く跳躍する。
(タイプOよりも、機体が軽い…。高機動型なのか?)
 予想よりも早い跳躍の速度に内心焦りながらも、機体を制御してファントムはローダー車の前に着地する。
『イグニス。ACでの戦闘経験は?』
 通信機ごし、ジュンが訊ねてきた。
「指折り数える程度だけ。それも、全て俺が追われる側だった」
『そうか。なら基礎は十分だな。戦闘は俺がサポートするから、お前は自分の直感と俺の言葉を信じろ』
 そう告げ、ジュンは手元のモニターを見た。
 ファントムのカメラアイから送られてくる映像がそこには映されている。
「そんなむちゃくちゃな…」
「ごちゃごちゃ言わずに早く行けッ!目標が堕ちるぞ!!」
「もぅ!分かりましたよ!!」
 ジュンに怒鳴られ、イグニスはやけくそ気味にブースターを点火した。
 グライド・ブースト。音速に近い速さでファントムは不毛の大地を駆け抜けた。

 激しく身を揺さぶる振動。
 時々轟く爆発音。
 主を守ろうと機体を操縦する侍女は焦っていた。
「セティア…」
 シートベルトでしっかりその華奢な体を固定されたその幼き主は、心配そうにモニターへ語りかけた。
『大丈夫よ、フィオナ。ワタシを信じて』
 決して現状を探られまいと、侍女は優しく力強く答え、愛機の状態を見た。
 自分らを浸け狙う敵が敷いた包囲網を、戦闘による強行突破で脱出してきた愛機は、あちこち欠損していた。
 戦闘は不能。そして、かつてあの青年から教えてもらった“外の世界”の救難信号は、欲望や野望に満ちた者達を呼び寄せ、教えてもらった目的地まではかなりの距離がある。
“八方塞がりとはこのことか”と侍女−セティアは思い、機体を跳躍させた。
 ACと似て異なるその機体は、残った胸部マシンガンを展開させ、それを追ってくるAS−12 AVESと呼ばれる敵機群へ掃射する。
「くっそッ!!ちょこざいなぁ…!!」
 先頭にいた赤いラインが入った機体の主は、憎たらしい声でそう叫び、掃射の嵐をかいくぐる。
 その主は、自分にミグラント・フリードと名乗った
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まろやか投稿小説 Ver1.50