8.『放棄できぬ依頼』

そんなことも書いてあったけど…。なんかリグシヴのアジトへ行ってからおかしかったんだよなぁ」
 苦笑いのような顔でジュンはフィーナへ告げ、”みずくせぇ”とボヤく。
「彼が元々『訳あり』、というのは代表も知っていたのでは…?」
 レオナがフィーナへ訊いた。
「えぇ。父からある程度は、ね。だけど、彼が抱えている問題がどういうモノなのか、それすら私は知らされてなかったわ」
 フィーナ曰く、彼自身はあまり自分の事を話さない、という。
 手がかりなし。情報なし。八方ふさがりだった。沈黙する面々。
 すると、先から部屋の隅で静観していたイグニスが進み出た。
「―イグニス。貴方、もしかして例の力で彼が失踪した理由を読み取ろうとしているの?」
 それを見たフィーナはすぐさまそう告げた。
「もしかしたら手掛かりが見つかるかもしれない…。今の俺には、これぐらいしかできないからさ」
 テーブルに置かれた手紙を前に、イグニスは静かに左手のグローブを外した。
「リュークは、俺にとって大切な依頼主だ。彼がいなければ、俺は今此処に居ないし、さ…」
 そして、ゆっくりと手紙に近づける。
 イグニスの指が手紙に触れた瞬間、彼の脳裏を強い電流のようなモノが駆け抜けた。
 そして、彼は見る―
 リューク・ライゼスという人物の過去とその正体…、そして、今。その行き先を―
 刹那、イグニスはフラついた。これ以上は精神が見た映像に犯される。
「だ、大丈夫か?」
 フラリと足元がふらついたイグニスをジュンが支えた。
「…見えた。リュークは、ロスト・アイランドへ向かっている」
 血の気の引いた顔をしながら、イグニスは皆へそう告げた。それを聞いたレベッカは、”なるほどね”と納得したように相槌を打った。
「あそこは、彼の生まれ故郷よ」
 そして、皆へそう告げるのであった。

 空を流れる雲が、“陽だまりの街”とは違う。
 女は、空を眺め、そして、眼前に広がる光景を見下ろした。
「また、このエリアへ戻ってくることになるとは、ね…」
 女の眼前にはかつて自分が生活した港町“開拓の港”が、そして、その港の先−
 低く垂れこめた雲と深い霧を纏ったかつての故郷、ロスト・アイランドがある。
「それがあなたの本来の言い癖なのね」
 エリーゼの声に、アルトセーレは振り向いた。
 乗ってきたローダー車の窓から半身を乗り出し、こちらを見るエリーゼがいた。
「なんとなく中性的な…、どちらかというと、女性寄りな気がしたけど…。ホント、その通りだったのね」
 エリーゼは淡々と目の前に居る自身を拉致した人間をまじまじと見ながら、そう告げた。
「それはほめ言葉として受け取ればいいか?ワタシは、元々こういう人間だ」
 皮肉を返すようにアルトセーレは言葉を返し、車へと乗り込む。
 そして、エリーゼを“悪いがどいてくれ”と助手席へと追いやると、
「もうすぐ目的地へ到着する。窮屈だが、もう少し辛抱してくれ」
 そう告げ、アルトセーレは車のキーを捻った。
セルモーターが数秒回った後、低い音を立てて、ローダー車は発進する。
「どうしてこういう乱暴なことを?私は、逃げはしないわ」
 重々しい鉄の手錠をかけられたエリーゼの手首は赤くなっていた。恐らく目覚めた直後、抜け出そうと抵抗したのだろう。
「信用できない言葉だな。お前はイグニスと別の意味で、底が知れん」
 アルトセーレの返事を聞いてエリーゼは観念した様子でため息をついた。
「私は私の身をまかせている貴方が信用できないわ」
 そして、続けさまにそう告げ、窓にだらしなく寄り掛かった。
「心配す
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まろやか投稿小説 Ver1.50