8.『放棄できぬ依頼』

※初めに
本作品は、アーマード・コアXを元にした二次創作作品です。
原作にはない設定、用語、単語が登場する他、筆者のフロム脳で独自解釈した世界観の見解が含まれます。


ARMORED CORE X
Spirit of Salvation


8.『放棄できぬ依頼』

 “陽だまりの街”
 “彼女”にとって、そこは安住の地になる予定だった。
 だが、“彼女”にはどうしても忘れられない、いや、放棄するわけにはいかない一つの契約があった。
 『ロスト・アイランド』
 その島の『あるシステム』の代行者となる人物を見つけ、連れて帰る。
 それは“絶対に達成できない契約”のはずだった。
 しかし、神は悪戯をする。
 目の前に、それらしき人物が現れた。
 『エリーゼ・バーンズ』
 安住の地で手に入れた情報から、それは“契約達成”のチャンスだった。
「茶番は終わりだ」
 倒れたエリーゼ・バーンズを見つめながらそう告げ、その人物は急いで身支度を始めた。
 大きなバストンバックへ気を失い倒れたエリーゼを器用に折りたたみ、押し込む。
 目覚めない様に、誰にも気づかれない様に、手早く―。
 次にクローゼットの奥から隠していたかつての衣装を取り出し、それに身を包んだ。
 そして、その奥から二つの30センチほどの長方形型アタッシュケースを取り出す。
 大切な品物であるそれを手にとり、“彼”との思い出に心を震わせると、それを手早くバックへ入れた。

 翌朝。
「ふわぁぁ〜…」
 ジュンは、大きく欠伸しながら通路を歩いていた。
 昨晩は、羽目を外し過ぎた。
 一応の事の終わりを告げる食事会のつもりだったが、少々酒に溺れ過ぎた。
 レオナとフィーナ嬢の怒りに満ちた顔、絡まれたイグニスの泣きっ面が今でも鮮明に思い出せる。
(さすがに、謝らないとまずいよなぁ…)
 いくら陽気な性格とは言え、さすがにTPOを最低限弁えないと仕事が無くなるかもしれない。
 そんな予感を酒で思考がにぶった頭の中で思いながら、ジュンは朝食を取るべく、食堂へと向かっていた。
 いつもなら、既にリュークが起きて、皆の分の配膳を始めているはずだ。
 今回よりも少し前、タイプTRをオーバーホールするために引き取りにきた際、そうだったからだ。
「あれ…?」
 だが、食堂へ着いた彼の目の前には、誰もいなかった。
 朝食の配膳どころか、人の気配すらない。
 今回の事件でほとんどの使用人が街を去ったこともあるだろうが、それを考慮してもこれは異様な光景だった。
 それを見たジュンは、ふと思い出した。
 昨日の、彼が退室するほんの一瞬の出来事を。
「まさか、な…」
 心が急にざわめき出した。
“嫌な予感がする”
 本能がそう告げている。
 ジュンは、すぐさまその場を立ち去り、駆けだした。
 目的地は、リュークの部屋。
「リューク!」
 “バンッ”と壁に叩きつけるように大きく開かれるドア。
ジュンがそこへ辿り着いた時、既にそこは蛻の殻だった。
「嫌な予感がしたんだ…」
 その場の勢いとは言え、自らの口から滑り落ちた発言に、苦虫を噛潰したかのように彼はつぶやく。
 全てが遅かった…。

 日が昇り、リュークが失踪した事実。そして、それと時同じくエリーゼも姿を消す―。
 その事実は、残されたメンバーに混乱を招いていた。
「どういうこと?“これまでありがとうございました”だ、なんて…」
 フィーナは、テーブルの上にある手元の置手紙に目を通し、そして、その場にいる皆へ訊いた。
「”私的な問題を解決するため、エリーゼと共に行きます”…。
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