「それよりも君達。貴方も、相当乏しい生活をしていたのね」
食事をパックらしきものに詰めるネロとステラをフィーナは見た。
「食べ物は逃げないし、与えないことはないわ」
“安心して食べなさい“と告げ、イソイソと食べ物を袋へ詰めるイグニスを呆れた目で見た。
「…す、すまない。つい癖なんだ」
どこか余所余所しく答える彼に、周りが笑い声に包まれる。
そして、楽しい穏やかな時間は経ち、子供達は眠り、残った者たちは酒が入り始めた頃。
「………」
皆が談笑する最中、エリーゼは、静かに席を立った。
そして、誰にも気づかれない様に、さりげなく食堂を後にした。
「“偽名”…か」
リュークは声を押し殺すかのように、苦しげに、小さく呟いた。
彼は、食堂を後にすると自室へ駆け込んだ。
1Kぐらいの広さの奥行きが広い部屋。奥には、浴室とトイレ。その隣には、小さいながら炊事場が完備してある。
そこは、もっとも代表に近い立場である執事専用に設けられた部屋だった。
壁際には、初代代表から譲ってもらった旧世代の銃器のコレクションがいくつか壁にかけられている。
その向は食器棚。中には、アンティーク物のティーカップが数点。これも初代代表から譲ってもらったものだ。
初代代表は、彼の事を知っていた。知っていたというよりも、理解を示した、というのが正解なのかもしれない。
「あんな戯言に、心乱されて…。私は疲れているのかもしれない…」
自分へ言い聞かせるように、独白して、リュークは汚れた上着を脱いだ。
(シャワーを浴びて落ち着こう。そうすれば、自ずとやるべきことが分かるかもしれない)
そして、それを丸めると奥の脱衣スペースへ歩く。
(私のこれから、やるべきことが…)
“シャ”っと、レースのカーテンを広げる。上着に手をかける。
刹那、そこに彼の姿はなかった。
浴室へ人影が消えると、部屋の入り口のドアを開け、エリーゼが入ってきた。
先のリュークの表情が気になり、謝るためだ。
(何か地雷を踏んだ感じだったのよね…)
奥から水が流れるような音が聞こえる。かすかに天井伝いに湯気が流れている。
「お風呂、かしら…?」
ふと、近くの壁に掛けてあるコルクボードが目を引いた。
写真がいくつか貼ってある。
それがなぜか気になり、エリーゼはその側によってピンで張り付けられたそれらを見た。
部隊結成時の集合写真。
領地戦の勝利の写真。
今よりも少し前の広杉・フィーナと、初代代表とのスリーショット。
そして―
「ん…?」
一際茶色く古ぼけた写真がその写真の裏に隠すように張り付けてあった。
思わずスリーショットの写真をめくり、それを見る。
「えっ―」
そこには、エリーゼが知るリューク・ライゼスの姿はなかった。
変わりに映っていたのは、黒き迷彩服を着てカメラに向け、笑顔で親指を立てる若き男性とウエディングドレスのような美しい衣類を着た女性。
その二人の間で楽しそう笑みを浮かべる幼き少女。
それを囲むメイド達。皆笑顔の中、一人だけ笑っていないが…
「…家族、かしら?」
エリーゼが呟いたその時、“ガチャリ”とリボルバーの弾奏が回る音がした。
「−何のつもりかしら?」
後ろ頭に突きつけられた固い物を感じながら、エリーゼは振り返らずそう訊ねた。
「それは、こちらのセリフだ。何が目的で、人の部屋へ勝手に入った?」
声の主はリュークだ。その声には怒りが含まれている。
「私は先の非礼を詫びに来たのよ。貴方、先皆の話している内容を気にしていたでしょう?だから、気になったの」
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