7.『亡霊の影』

いて、自分は人ではない何かになっていて…」
 恐らく自分もイグニスと同じ、時折周囲の者が話す“Δ(トリニティ)システム”の一片を埋め込まれたのかもしれない。
(そうでなければ、あんな−)
 昨日の、戦闘直後に我に帰った時の事を思い出す。
「ッ…」
 思わず顔を顰めた。
「すまない。記憶が曖昧なんだな…。だから、俺でも読み取れなかった」
 イグニスがサイコメトリーの力が宿る左手を見る。
 その顔は、どこか辛そうだ。何か、彼も思いつめているのだろうか。
「―じゃあ、探そうよ。二人の求めるモノを」
 別の方から声がして、そちらへ顔を向けた。
 声の主は、ネロだった。そのネロの手をギュッと強く握り、ステラも訴えるような眼差しでエリーゼとイグニスを見ている。
 どうやら子供達は、自身たちの話をずっと聞いていたらしい。
「イグニス兄ちゃんは、自分が選ばれた理由を探すため。エリーゼ姉ちゃんは、自分の記憶を探すため」
強い口調でネロは二人へ告げる。
 なんということだ。
 始めから分かりきっている事を子供に言われるとは…
「ったく、この10歳過ぎのおこちゃまが生意気だぞ〜」
 鼻で笑い、イグニスはネロの頭をクシャクシャと乱暴になでた。
 それにネロが“おこちゃまじゃない”と顔を真っ赤にして怒り、その手を跳ねのけようとする。それを隣でステラが楽しそうに眺めている。
(決して、この世界でも…一人ではないのね)
 その光景を見ながら、エリーゼはどこか心が満たされるような、温かい気持ちになった。
 その夜。
 広杉邸に戻ったイグニス、エリーゼ一行と調査から戻ったリューク、ジュン一行は、屋敷の食堂で食事を囲みながら、それぞれの思いや調査結果を話していた。
 イグニスとエリーゼはこれからの動向を、リュークとジュンは調査結果を皆へ告げ、食事へと入る。
「それにしても、まさかの探し人がこんなに近くに居るなんてなぁ…」
 皆よりも早く一通り食事を平らげたジュンは、椅子の背もたれを傾け前後へ揺らしながら、そう告げた。
「ジュン。TPO守ってよ」
 顔をしかめて注意するレオナに、“いいの、いいの”と反省する事もなく相槌を打って、視線を向かいの席に座るエリーゼへ向けた。
「まぁ、記憶喪失なら仕方ないな。でも、よくとっさに偽名なんて思いついたもんだ」
「簡単よ。私の名前は、造り物だもの」
「そりゃ、達の悪いジョークだ」
 “はははっ”と笑い話すジュンの隣、広杉・フィーナの側でリュークは黙り込んでいた。
 一人何かを思いつめたような表情のまま、スープにスプーンを浸け、動かない。
「どうしたの?リューク」
 フィーナに声をかけられ、リュークはビクッと体を一瞬震わせ、我に返る。
 弾みでスプーンを浸けたスープ皿が大きく揺れ、リュークのいつもの執事服へかかる。
「あっ、ごめんなさい。すぐに拭くわ」
 慌てて手元のナプキンを手にとり、フィーナは席を立った。
 それに対し、リュークは“大丈夫です!”と振り払うように強い口調で言うと、皆と視線を合わせることなく、食堂を駆けだした。
「あれっ?リュークの旦那!?」
 ジュンの掛け声にも振り返らず、リュークは乱暴にドアを開け、食堂を後にする。
「どうしたんだろうな?調査に行ってから、妙に考え事しているような…」
 大げさに首をかしげながら腕組みしてジュンは、そう独白する。
 それに、答えるようにフィーナは席について、
「まぁ、彼。潔癖なところがありますから…」
 そう皆へ説明するように答えた。そして、チラリと先からコソコソと何かをしているネロ達へ向ける。

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