7.『亡霊の影』

れと入れ替わりでネロとステラが見舞いに来て、“エリーゼが朝から姿が見えない”と彼に告げた。
 二人の話から、エリーゼは教会跡地へ向かったのでは?と思い、イグニスもそこへ向かったわけだ。もちろん、二人もついてくる。
(あの時…。意識を失っていたはずなのに、エリーゼの戦う姿が見えた)
不思議な体験を、彼はあの時にしていた。
自分がACとなって戦う夢。しかも目の前には、今戦っているタイプD。
視線はタイプ0と、あの“ファントム”。
まるでゲームでもしているかのように、戦う二機の後方から彼は戦いを見ていた。
タイプDの撃破。そして、直後の女性の悲痛な叫び声で彼の意識は暗闇に呑まれる。
(この後ろの、“コブ”が俺に見せた夢なのか?)
 後頭部。触ると薄らと盛り上がる皮膚の下の何か。謎のAC『タイプ〇』によって埋め込まれた機械。
 タイプ〇が大破した今、それが何の役目をするものなのか、知る術を彼は知らない。
 だからこそ、エリーゼと会って、ちゃんと話がしたかった。
 どこかミステリアスな空気を纏う彼女を知りたかった。それが答えへの唯一の手段であるから。
「あっ…。エリーゼ姉ちゃんだ!」
 ネロの声でイグニスは視線を彼が指差す方へ向ける。
 かつての自分の住処。今は半端崩れてガレキの山が散乱する教会跡に、彼女はいた。
 嬉しげに笑みを浮かべ、ガレキの側で何か物思いに耽る彼女の元へと駆けてゆく。
エリーゼは二人に気づくと、どこかぎこちない笑みを浮かべ、二人の子供を迎えた。
「エリーゼ。どこに行っていたんだよ」
 彼の声にエリーゼは視線を彼へと向けると、“散歩よ”と短くいつものように答えた。
「こんなときに“散歩だ”なんて…。どうせ、ウソだろ?」
 呆れたように、イグニスは彼女へ訊き返した。
「ウソじゃないわ。ちょっと気分転換できたし…」
 そう告げて、エリーゼはネロとステラへ“ちょっと向こうで遊んでいてくれる?”と優しく指示した。
「うん」
 空気を察したのか、ネロと短くはっきりと返事すると、心配そうに二人を見つめるステラを諭しながらその手を引いてガレキの向こうへ消えた。
「イグニス。貴方、私に用があるのでしょう?」
 近くに放置されていた木製の長椅子を引き寄せ、エリーゼはそれへ腰かけた。
「そうだ」
 その隣へイグニスも腰掛ける。
「俺の能力なのか、それともこの俺に埋め込まれたシステムなのか、分からないけど…。俺は夢を見たんだ…」
 語り部のような言い回しでイグニスは、昨日見た光景をエリーゼへ語る。
自身がエリーゼと出会うまで、“ここ”で起こったこと、そして、自分の事を話した。

 イグニスの語る話の、それら一つ一つをエリーゼは丁寧に聞き、そして、彼女はそれらの一つ一つから自分に繋がる情報を探り出そうとした。
「…そう。どうして私がこの世界で必要なのか、よく理解できないわ」
 だが、結論は出なかった。イグニスから得られた情報はごくわずか。
 自分がいた時代からここはかなりの時間が経過していること。
 今が、自分がいた世界が崩壊した後の世界であること。
 自分は、この世界で過去の技術に興味がある特定の勢力に狙われていること。
 その3点だけだった。
「君はどうなんだ?」
 一通り話し終えたイグニスは、改めてエリーゼを見た。
 その眼は自身と同じく、どうして自分が必要とされているのかという答えを探すべく、真剣に自分を見ている。
「ごめんなさい、分からないわ。『気が付いたら、ここにいた』としか言えない」
 それはウソでも偽りでもない。
「目が覚めたら、世界が崩壊して
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まろやか投稿小説 Ver1.50