7.『亡霊の影』

レベッカは”ふぅ”と深く息を吐いて、
「彼らが戻ってくるのは、昼ごろよ。それまで、今はしっかりと体を休めなさい。恐らく、これから長旅になると思うから」
「どういうことだ?」
「エリーゼ・バーンズ。彼女を探し出すのが、まず貴方がやることよ」
 それにイグニスは“どういうことだ?”と顔を顰めて訊き返した。

 同じころ。
 リューク・ライゼスとジュン・クロスフォードを始めとする警備部隊の一団は、破壊したタイプDから回収した情報を元に、かつてphantom-Childrenが拠点としていたアジトへと踏み込んでいた。
「ほぇ〜、こりゃまた豪勢な施設なこと。元々軍事施設だったのかねぇ〜…」
 子供のように周りをキョロキョロ見回しながら、ジュンは車を進める。
広大な整備用ドック。きれいに整備され、所々に彼らが使っていたエンブレムが書かれたタペストリーがかけられている。
(かつては、私もこういう所にいた)
 助手席に座ったリュークは、流れる光景を見つめながら、どこか想いは別の所にあった。

 それは遠い昔の事。数え年が2ケタになった頃の話だ。
 この世界で生き残るために、私は人ではなく、兵士になることを決めた。
“ようこそ、名もなき傭兵”
 出迎えたその軍師は、にこやかに優しく笑い、自分の手を取った―

「リュークさん。着きましたよ」
 レオナの声でリュークはハッと驚いた顔をして、現実へと帰った。
 気がつけば、そこは整備ドックと指令室へと続く通路の入り口だった。
「すまない。ちょっと眠っていたようだ」
 目がしらに手をやり、薄らかいた汗を拭きとるような仕草をし、リュークは先に車を降り、レオナと共に入り口で待つジュンの元へ急ぐ。
 3人はその入口へ入り、通路を進む。
 目的地はリグシヴ・ウェーバーの私室。今回の一件の背景に何があったのか、それを探るためだ。
「大丈夫ですか?ちょっとお疲れなのでは?」
 隣を歩くレオナが心配そうにこちらを視てくる。
「大丈夫だ、問題ない」
 視線を通路の先に向けたまま、リュークは答えた。
 長い通路の先、いくつかの部屋を巡った後、3人の目の前に木製の両開きの扉が現れた。
 ここが、リグシヴ・ウェーバーの私室だ。
「さて、ここにお探しの資料はあるかなっと…」
 ジュンがいつもの調子で扉のノブに手をかけ、扉を開ける。
 中は、まるで洋館の一室のような作りをした書斎になっていた。
 主亡き今、ひっそりとアンバー色の電灯が多くの資料らしき本と壁にピンで張り付けられた紙を照らし出している。
「ジュン。私、そちらの本棚見てみるから、そちらの本棚をお願い」
「はいはい」
 リュークの目の前で二人が左右の壁に背をつけるように設置された本棚を調べ出した。
 目的は、一つ。リグシヴ・ウェーバーがなぜ“陽だまりの街”に拘り、何を狙っていたかを調べるため。
 リュークも目の前にあるテーブルの上に広げられた書類に目を通し始めた。
 それは、活動報告書だった。かなり前から何かの為に、つけていたのだろうか?

“1月 ユーリ・広杉の部隊に傭兵として合流する。目的は彼が調べているロスト・テクノロジーを手に入れるため。まずは、リーダーである彼の信頼を得ねば…”

“4月 ユーリが調べているのは、ただのロスト・テクノロジーではない。何かのシステムだ。それが私の依頼主が求めているものなのだろうか?”

“7月 複数の旧施設跡地の占拠に成功。天候が比較的落ち着いている生活可能地域であることから、”陽だまりの地“と名付け、ベースキャンプにする”

“10月 ユーリは何か
[2]前へ|[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6 7]
[7]TOP [9]目次

まろやか投稿小説 Ver1.50