第6話

き落とすかのようにタイプDの右手が振り下ろされ、タイプ0は、無人と化したビルへと叩きつけられた。
 大きな砂塵を上げ、タイプ0は崩れたビルの中へとその体をめり込ませた。
 そこへ容赦なくタイプDの右手の先から複数の火線がそのビルへと掃射される。
「ガッァ−……!?」
 激しい衝撃に息を詰まらせ、身を捩らせるイグニス。
 激しく内部、外部にプラズマや火花が走る。
 ACそのものに設計以上の強い力がかかった証拠だ。
『稼働限界までわずかです。回避を最優先にしてください−』
 警告音と共にモニターがブラックアウト。飛んできた一発の弾丸でカメラアイがやられた。
(やられるのか…)
「イグニス!脱出しろ!」
 無線の向こう、エリーゼが叫ぶ。
(脱出しろって…。体がまともに動かないのに−)
 血の味がする口元を食いしばり、イグニスはぼやける視界の中、手探りで必死にコクピット内でハッチの強制解放レバーを探す。
 タイプDは、時機に部位の欠損を齎したACを『最優先に排除すべき目標』と設定し、止めと刺すべく、両手の砲身をビルの建屋内にめり込んだそれへと向ける。
「イグニスッ!!チィッ!!」
 ファントムが榴弾砲とバトルライフルを握り、駆ける−
“間に合わない!!”
 エリーゼの顔に初めて感情が露わになった。
 不思議なことだった。こんなにも赤の他人の為に心が揺れることなど、この世界で目覚めた頃の彼女は想像できただろうか…。
“何でこんな気持ちになる!?”
 眠る前の世界で、こんなシーンは幾度も経験した。そして、その結果こんな気持ちなど等に枯れ果ててしまっていたとエリーゼは思っていた。
“もしかして、私は−”
 眼前に見える砲身に光が灯る。
“あの青年が…、『彼』と似た存在だから…。だからッ!”
『システム、Atroposを確認。Klothoとのデータリンクを開始』
 頭の中に響いた声にエリーゼはハッとして、刹那黙り込んだ。
『システム、Klothoを確認。リンク開始』
 イグニスははっきりとそのコンピュータの声を聞きとると、同時に脳内に強い電気の様な物を感じ、意識を失った。
 人の手を離れた両者が背部に強い光を灯してそれぞれその場から消える―
 タイプDは、突然消えた敵の反応にロックオンエラーを起こし、そして、すぐに消えた目標を探すべく、索敵モードで周囲を調べる。
 そして、少し離れたビルの屋上にいる両者を発見した。
 大破寸前のタイプ0は跪き、その肩へ白と紫で象られたACが手を置いている。
「『状況データ、分析完了。機動データ、統合完了』」
 エリーゼは小さく、まるでコンピュータのように淡々とつぶやく。
「『システムバックアップのため、タイプ0より生体ユニットを分離』」
 紅き瞳がタイプ0の胸部を視た瞬間。タイプ0のコクピットハッチが小さな爆発を上げて弾け飛び、刹那力なくそこからイグニスが滑り落ちた。
 それを横目で確認するとエリーゼは無人となったタイプ0を立たせ、タイプDへと向き直った。
「『ターゲット再確認。目標、敵巨大兵器…。排除を開始する』」
 彼女の人ではない紅き瞳が、ACのカメラアイが、タイプDを捕えた次の瞬間、ファントムはグライドブーストでその場から飛び出した。
 それと寸分狂いなく、無人と化したタイプ0も同じようにグライドブーストで飛びだす。
 それを視たタイプDは、こちらへ向かってくる二機へ全ての砲身を向け、掃射を開始する。
 まさに弾幕地獄。だが、その地獄の中をまるでサーフィンでもするかのように両者は華麗に宙を舞い、そして、時には近くの高層ビ
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まろやか投稿小説 Ver1.50