第6話

Rの方を見た時、タイプTRは銃弾が飛んできた方を向いていた。
『久しぶりだな。アルトセーレ…』
 通信機からジュンにとって聞きなれぬ初老らしき男の声が聞こえてくる。
それと同時に息が詰まりそうな殺気じみた強い視線を感じ、ジュンは動けなくなった。これほどまでの殺気は、自分の探す“あの男”と同じだった。
 リュークにとっては、聞き覚えのあるあの男の声だった。静かに、しかし、今まで視たことが無いくらい顔を怒りに歪ませ、リュークは辺りを睨みつける。
「どこにいる?スモークマン…。黄泉へと送り届けてやる…」
『随分いきり立っているな?…まぁ、いい。今日は顔見せだ。いずれ正式に挨拶に参ろう』
 そう告げ、通信は一方的に切れた。
 やがて周囲を包んでいた“殺気じみた空気”も消える。
「リューク、今のは…?」
 訊ねるジュンの言葉を無視し、リュークは愛機の向きを街の方へ向け、ブースターを点火した。
「ジュン、街へと急ぐぞ」
 冷たく突き放す口調でそう告げグライドブーストを起動する−
「お、おぅ」
 彼の知っているリュークとは違う今の彼にジュンは戸惑いを感じながらも、彼のタイプTRの後を追うように自身も愛機のブースターを点火させた。

 もはやそこに“陽だまりの街”と呼ばれる街はない。そこは、ある組織の最終兵器と街の最後の防衛ラインがぶつかる戦場だ。
 破壊の限りを尽くされたコンクリートの街に巨人兵が一つ。
 そして、それを倒すべく戦う二つの光。
 イグニスにとって、これが初めてのACによる本格戦闘になった。
「イグニスッ!!とにかく動き回って!!逃げるのよ!!」
 エリーゼの指示が飛ぶ。目の前には、飛んでくるミサイルの束。
「あ、あぁ!!」
 Δ(トリニティ)システムのサポートなのか、イグニスの頭の中に連続で回避機動が送り届けられてくる。
 それに従い、イグニスも機体を制御し、ギリギリの回避機動でミサイルを交わす。
 後方では真新しい炎の壁が空へ向かって立ち上っている。
 その壁を貫き、ファントムは、右手のライフルと左手の榴弾砲をタイプDへと向け、その懐へと素早く駆け込む−
 そして、ロックオン。
 放たれた弾丸が連続で火花と火炎を生み、やがてそれが大きな火柱へと変わった。
“確実に敵兵器へダメージを与える”
 エリーゼにとって、それが対大型兵器の対処法だった。
 例えどんなに巨大だろうと、どんな化物だろうと、確実に物理的なダメージは発生し、それは蓄積されてゆく。
 やがて、それは弱点の発見につながり、しいては敵機の撃破にもつながる。
全ては、遠い昔に習ったことだ。
“こんなことが、今となって役立つとは…”と、言葉に出さず呆れ、エリーゼは機体を飛ばす。
「すげぇ…。火力のない機体でタイプDを手玉にとっている…」
 ロックオンしたタイプDの右背部ミサイルランチャーへ追加装備された左手のライフルと右手のガトリングガンを乱射しながら、イグニスは驚いていた。
“やはり、彼女は只者ではない”
 そう思いながら、右手の武装をブレードへ切り替え、眼前の巨大な兵装に斬りかかる。
「俺だって!!」
 大きな火花を散らしながら、レーザーブレードの刃が鋼鉄を焼き切る−
 大きな爆炎を上げ、右背部のミサイルランチャーが爆散した。
 既にその時、タイプ0はタイプDとの間合いを取るべく、空中でハイブーストを吹かし、後退。それは全てシステムの想定通り。だが−
「!?」
 眼前に上がる黒煙を着きやぶり、目の前を蔽う巨大な掌は想定できなかった。
「イグニス!」
 エリーゼの目の前で、まるで蚊を叩
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まろやか投稿小説 Ver1.50