彼女は付け加え、コクピットへ体を滑り込ませる。
そして、手慣れた手付きでコンソールを操作し、機体の電源を起動させた。
目まぐるしい速さで内蔵された機体管制コンピュータが作動を開始し、連動してジェネレーターや各種センサー類が作動を開始する。
「…どうやら彼女の言うことは間違いないようだ。イグニス。君には特注のヘリとパイロットスーツを用意するよ」
それを見ていたクラークソンはため息交じりに、しかし、どこか楽しげに、イグニスへそう告げると、キャットウォークを歩き始めた。
「それって、新手のブラック・ジョークか?」
呆れた様子でイグニスは言葉を返し、彼の後を追う。
5分後。
森の中に、大きな□のスペースがあった。
整地され、コンクリートの敷地に、大きなヘリポート兼発射台。
まるでジャングルジムのように組まれたそれに巨大な輸送ヘリと、それとワイヤーで連結されたファントムの姿があった。
連結作業が終わり、今まさに飛び立たんとしている。
『それじゃあ、二人とも。気をつけて−』
通信機越しに、レベッカは二人にそう告げた。
「あぁ。アンタにはまだ訊きたいことが山ほどある。必ず戻るさ」
パイロットスーツに身を包んだイグニスは、手慣れた手付きで各種機器をチェックしながらそう告げた。
「イグニス、行きましょう」
エリーゼの言葉に促され、イグニスは短く“了解”とだけ答えると、スロットルを開けた。
左右二つのローターの回転が上がり、ACを吊り下げヘリは飛翔する。
やがて、それは機体の前方を傾かせると風を切り、黒き森の空を駆け抜けた−
“陽だまりの街”にある広杉邸に不穏な空気が流れ始めていた。
理由は、数分前に確認された敵の部隊。
報告によれば、ほぼ無人機で構成されたソレらは、規模は小さいものの、その中に含まれる一個体が、司令のフィーナに衝撃を与えた。
“タイプD No.5”
そう呼ばれるソレは、ACをはるかにしのぐ巨体に重火器と重装甲で身を固め、投入された場所でプログラムされた対象を破壊し尽くまで戦闘をやめない殲滅兵器である。
(あの男は、もうこの街の事などどうでもいいのかもしれない…)
目の前にある中継モニター画面の中で、繰り広げられる防衛ラインの戦闘映像を見ながら、フィーナはそう思った。
画面の中で、街の外壁に設置したセントリーガンとわずかに残った砲台が目標を認識し、再び攻撃を開始する。
対機動兵器用であり、本来なら並みのACであれば侵攻をためらうほどの銃撃を受けてもなお、その鋼の暴君は侵攻をやめない。
タイプDは、目的地へ侵攻するのに阻害するそれらを認識すると、一斉に両手の火器を掃射し始めた。
瞬く間に、火線はそれを上回る業火にやられ、街が火に包まれる−
「クッ−」
映像が途切れ砂嵐になった画面を見ながら、フィーナは堪らず口昼を強くかみしめた。
“冗談じゃない”
それが心の中に浮かんだ第一声。
“勝てるわけがない−…。いや、勝つのではない”
それが次に出てきた言葉だった。
「残っている戦力は全てアレの足止めに廻しなさい!なんとしてでも、“彼ら”が戻ってくるまで耐えるのです!!」
右手を振り、指令室にいる部下へ号令を飛ばす。
指示を受け、兵士たちが慌しく動き、様々な怒号や言葉が乱れ跳ぶ。そして、視線を隣のレオナへ飛ばした。
「レオナさん。リュークやジュンさんたちの様子は?」
「駄目です!先までモニタリングできていたのですけど、ジャミングが酷くて…」
何も映さない、何も届けない通信機器を睨みつけながら、レオナは
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